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しおりを挟む昨日は今年一番の大雪が降り、外の景色は眩いくらいの純白に染まっている。
だが、本日は久方ぶりの晴天だ。
まるで天がレヴィの成人の日を祝うかのように、からりと晴れている。
しかし、教会の広間は怪我人で溢れており、痛々しい呻き声が響いていた――。
魔物討伐から帰還した騎士たちだ。
彼らの治癒で、聖女候補たちは早朝から息つく暇もなく、レヴィの成人を祝うどころではなかった。
(――圧倒的に人手が足りないっ)
だが、こんな時でもレヴィに治癒を頼む者は、誰ひとりとしていなかった――。
情けなくて泣きそうになるレヴィだが、じっとしてなんていられない。
ありったけの毛布を用意し、皆の凍える体にかけていく。
それから、あり合わせで栄養満点のスープを作ったレヴィは、治癒の順番を待つ騎士たちに、温かなスープを配り続けていた。
「お待たせしましたっ。熱いので、気をつけて飲んでくださいね」
「…………ありがとうございます」
床に座り込み、小刻みに震え続けている騎士が、レヴィに向かって頭を下げる。
しかし、スープは受け取ってくれるものの、皆がどこか余所余所しい態度だった。
(僕、みんなに嫌われるようなこと、しちゃったのかな……?)
きっと聖女候補だというのに、満足に治癒をできないからだろう。
それでも精一杯、笑顔を浮かべるレヴィは、ひたすら動き続けていた――。
無事に、全員が治癒を終えたところを確認したレヴィは、安堵の息を吐く。
だが、休んでいる暇はない。
次は全力で治癒を施した聖女候補の仲間たちに、スープを配っていく。
「ああ~、生き返るっ! レヴィ様、ありがとうございますっ!」
一気に飲み干したマリアンナが、レヴィににぱっと笑いかける。
「いえ。飲み終わった食器も片付けますね?」
「っ、すみません。では、お言葉に甘えて――」
マリアンナが申し訳なさそうに、レヴィに空になった食器を渡す。
いつもならレヴィに気を遣っているが、皆かなり疲労していることが見て取れた。
他の聖女候補たちからも食器を受け取っていると、重傷者の治癒を終えたアニカが、レヴィの頭を優しく撫でた。
「私がなにも言わずとも、周りがよく見えていましたね? レヴィ、よく頑張りました」
珍しく皆の前でアニカに褒められる。
マリアンナたちにも感謝され、笑みを見せたレヴィだが、内心気落ちしていた。
(――僕は、みんなから感謝されるようなことはしていない。誰にでもできるようなことしか、できなかった……)
空になったスープの食器をすべて回収したレヴィは、洗い場へと向かう。
冷たい水に、皮膚を刺されるような痛みを感じても、黙々と洗い続けていた。
洗い物をする時は、無心になれる。
そんなレヴィの肩に、黄色と赤の混じる毛が美しい鳥が、ちょこんと乗った。
「あっ、ロッティさん!? いつのまにポケットから抜け出してたの?」
『今気付いたのかよ。俺様は、ご主人様の邪魔をしないように、大人しく飛び回っていたんだぜ?』
「――飛び回るのは、大人しく……とは言わないと思うけど……。って、ロッティさん、飛べるようになったんだ!」
寂しかったのか、レヴィの頬をつつく仕草はとても可愛いのだが、『……今更かよ』と、呆れたようなハスキーの声が、レヴィの耳をくすぐった。
『それで。ご主人様は、一体なんで落ち込んでいるんだ?』
「っ……」
『自分で考えて行動してただろ? 俺様は、よくやったと思ってるぜ?』
落ち込んでいる理由を聞かれたレヴィは、ロッティの観察力に瞠目した。
なにも言わずとも心が通じ合っているような気がして、レヴィの胸がじんとあたたかくなる。
そして、もやもやとした気持ちを解消できずにいたレヴィは、先程の騎士たちの余所余所しい態度について話していた――。
「僕、騎士の方々に嫌われるようなことをしちゃったみたいで……」
『ああ、そんなことか。ご主人様が気にすることなんてないぜ? アイツらは、ご主人様の王子様に文句があるだけで、ご主人様には感謝してると思うぜ?』
「…………そうなの?」
予想外の返答に、レヴィは目を瞬かせた。
『そうそう。王子様は、初日に足を怪我して、魔物討伐にはずっと不参加だったらしい。それなのに、ご主人様の成人の日を祝いたいからって、無茶なスケジュールで帰還したんだと』
「っ……それって、やっぱり僕のせいじゃ――」
悲鳴を上げそうになったレヴィだが、厨房の外から大きめの足音が聞こえ、咄嗟に口を引き結ぶ。
勢いよく厨房の扉を開いたのは、キラキラ笑顔のテレンスだった。
「レヴィッ! やっとだ。やっと、勇者召喚に成功したんだ! これで心置きなく、レヴィと婚姻できる!」
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