上 下
3 / 131

しおりを挟む


 悲しみに濡れる紫水晶のような瞳には、テレンスの姿が映る。
 金髪碧眼の見目麗しい王子様だ。
 レヴィが劣等生だと分かっても、テレンスはいつもの穏やかな笑みを向けてくれた。
 だがレヴィは、もうテレンスの婚約者ではいられないかもしれないと、不安に襲われていた。

 表情にこそ出さなかったが、テレンスはレヴィの複雑な心境に気付いてくれたのだろう。
 死刑宣告を受けた気分になっていたレヴィに、『気にするな』と、微笑みかけてくれた。
 『聖女にならずとも、私が伴侶に迎えたいと思う相手は、愛するレヴィだけだよ』と、優しい言葉までかけてくれたのだ。

 どんなことがあろうとも、テレンスだけはレヴィの味方でいてくれる。
 だからかねてからの約束通り、本日の聖女候補お披露目の儀式では、テレンスはレヴィを選んでくれるのだと信じて疑っていなかった。


 しかし、テレンスは今、最も力のある聖女――アニカに勧められた若い聖女候補の手を取っていた。


 テレンスが婚約者のレヴィを大切に想っていたことは周知の事実であり、他の者とは適切な距離を保っていた。
 それが今は、治癒を受けるためとはいえ、婚約者以外の手に触れている。
 いくらレヴィに力がなかったとはいえ、テレンスはレヴィに付き添うとばかり思っていた者たちにとっても、衝撃的な光景だった――。

「っ……テレンス、殿下……」

「期待しているよ」

「っ、は、はい」

 雲の上の存在であるテレンスに話しかけられ、ドレーゼ侯爵令嬢が頬を染める。
 レヴィの同年代で、次代の聖女として最も有望視されている女性だ。
 スザンナの髪と瞳は、高い治癒能力を持つとされる、見事な琥珀色だった。
 己の自慢であった白に近い金色の髪を、レヴィは疎ましく思ってしまう。

(テリーはいつも僕を褒めてくれていたけど、本当は最初からわかっていたのかもしれない……。僕に素質がないことを――)

 この場で、テレンスが婚約者であるレヴィを選ばなかったことが、他者の目にどう映るのか。
 聡明なテレンスがわからないはずがない。


 レヴィが第二王子殿下の婚約者として相応しくないと、失格の烙印を押したのは、他でもないテレンス本人だった――。


「嗚呼、心地よいな……」

「っ、あ、ありがとうございますっ!」

 気持ちよさそうに目を細めたテレンスの体が、淡いオレンジの光に包まれる。
 普段より、何倍も美しく神々しいテレンスを囲む人々が感嘆の声を漏らした。
 優れた治癒能力を発揮したドレーゼ侯爵令嬢も称賛され、とても誇らしそうだ。
 

 しかし、幻想的かつ感動的な光景を、ぼんやりと眺め続けることしかできないレヴィだけは、拷問のような時間を過ごしていた――。















しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

婚約破棄署名したらどうでも良くなった僕の話

黄金 
BL
婚約破棄を言い渡され、署名をしたら前世を思い出した。 恋も恋愛もどうでもいい。 そう考えたノジュエール・セディエルトは、騎士団で魔法使いとして生きていくことにする。 二万字程度の短い話です。 6話完結。+おまけフィーリオルのを1話追加します。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】スキル「癒し」のみですがまだ生き残っています!

鏑木 うりこ
BL
 気がついたらチュートリアルもなく赤ん坊だった。スキルはたった一つ「癒し」しかないのにこの世界を生き残れるのか!俺!

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

【完結】自称ヒロイン役を完遂した王家の影ですが、断罪パーティーをクリアした後に王太子がぐいぐい来ます。

竜鳴躍
BL
優秀過ぎる王太子×王家の影(失業)。 白い肌に黒髪黒瞳。小柄な体格で――そして両性具有。不出来な体ゆえ実の親に捨てられ、現在はその容姿を含め能力を買われて王家の影をしていたスノウ=ホワイト。男爵令嬢として王太子にハニトラを仕掛け、婚約者を悪役令嬢に仕向けて王太子への最終試験をしていたのだが、王太子は見事その試練を乗り越えた。これでお役御免。学園を退学して通常勤務に戻ろう――――――。 そう思っていたのに、婚約者と婚約解消した王太子がぐいぐい来ます! 王太子が身バレさせたせいで王家の影としてやっていけなくなり、『男子生徒』として学園に通うスノウとそんなスノウを妃にしたくてつきまとう王太子ジョエルの物語。 ☆本編終了後にいちゃいちゃと別カップル話続きます。 ☆エンディングはお兄ちゃんのおまけ+2ルートです。

処理中です...