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しおりを挟む悲しみに濡れる紫水晶のような瞳には、テレンスの姿が映る。
金髪碧眼の見目麗しい王子様だ。
レヴィが劣等生だと分かっても、テレンスはいつもの穏やかな笑みを向けてくれた。
だがレヴィは、もうテレンスの婚約者ではいられないかもしれないと、不安に襲われていた。
表情にこそ出さなかったが、テレンスはレヴィの複雑な心境に気付いてくれたのだろう。
死刑宣告を受けた気分になっていたレヴィに、『気にするな』と、微笑みかけてくれた。
『聖女にならずとも、私が伴侶に迎えたいと思う相手は、愛するレヴィだけだよ』と、優しい言葉までかけてくれたのだ。
どんなことがあろうとも、テレンスだけはレヴィの味方でいてくれる。
だからかねてからの約束通り、本日の聖女候補お披露目の儀式では、テレンスはレヴィを選んでくれるのだと信じて疑っていなかった。
しかし、テレンスは今、最も力のある聖女――アニカに勧められた若い聖女候補の手を取っていた。
テレンスが婚約者のレヴィを大切に想っていたことは周知の事実であり、他の者とは適切な距離を保っていた。
それが今は、治癒を受けるためとはいえ、婚約者以外の手に触れている。
いくらレヴィに力がなかったとはいえ、テレンスはレヴィに付き添うとばかり思っていた者たちにとっても、衝撃的な光景だった――。
「っ……テレンス、殿下……」
「期待しているよ」
「っ、は、はい」
雲の上の存在であるテレンスに話しかけられ、ドレーゼ侯爵令嬢が頬を染める。
レヴィの同年代で、次代の聖女として最も有望視されている女性だ。
スザンナの髪と瞳は、高い治癒能力を持つとされる、見事な琥珀色だった。
己の自慢であった白に近い金色の髪を、レヴィは疎ましく思ってしまう。
(テリーはいつも僕を褒めてくれていたけど、本当は最初からわかっていたのかもしれない……。僕に素質がないことを――)
この場で、テレンスが婚約者であるレヴィを選ばなかったことが、他者の目にどう映るのか。
聡明なテレンスがわからないはずがない。
レヴィが第二王子殿下の婚約者として相応しくないと、失格の烙印を押したのは、他でもないテレンス本人だった――。
「嗚呼、心地よいな……」
「っ、あ、ありがとうございますっ!」
気持ちよさそうに目を細めたテレンスの体が、淡いオレンジの光に包まれる。
普段より、何倍も美しく神々しいテレンスを囲む人々が感嘆の声を漏らした。
優れた治癒能力を発揮したドレーゼ侯爵令嬢も称賛され、とても誇らしそうだ。
しかし、幻想的かつ感動的な光景を、ぼんやりと眺め続けることしかできないレヴィだけは、拷問のような時間を過ごしていた――。
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