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しおりを挟む「っ、テリー……」
第三者の声に、繋いでいた手はどちらからともなく自然と離れていた。
そのことを寂しいと思ってしまうレヴィは、微笑むテレンスがゆっくりと歩み寄り、腰を抱かれるまで、ベアテルに意識を持っていかれていた。
「もしかして、レヴィに治癒をさせたの?」
どこか咎めるような口調で告げたテレンスが、目を細める。
とても不機嫌そうだと、肌で感じ取る。
それでもレヴィは、ベアテルに治癒を施したことを後悔していない。
ベアテルに認めてもらえたことで、レヴィの心は救われたのだから――。
(怒られるなら、仕方がないと思う。……でも、テリーだって、昔から約束していた僕じゃなくて、ドレーゼ侯爵令嬢を選んだのになあ……)
テレンスは、レヴィとの約束を破ったことに気づいているのかいないのか。
お披露目の場でレヴィを選ばないのなら、誰の手も取ってほしくなかった。
我儘なことを考えてしまい、レヴィはかぶりを振る。
その間、ベアテルは、テレンスの穏やかな青海原のような瞳をじっと見つめていた。
しかし、なにも答えずに頭を下げる。
「ベアテル……。レヴィに無理をさせてはいけないことくらい、わかるだろう? 君は賢いと思っていたが――」
「っ、違います!! ベアテル様は、なにも悪くなんてありませんっ!!」
ベアテルが責められてしまい、レヴィがたまらず口を挟む。
少しだけ声を荒げてしまい、テレンスは目を見張っていた。
何事だと、辺りが騒然とした雰囲気に包まれる。
微笑みを絶やさないテレンスに、困ったような表情を向けられ、レヴィは慌てて謝罪していた。
「申し訳ありません……」
「レヴィ? 私が、なんのためにレヴィ以外の相手に治癒をしてもらったと思っているんだい?」
そっと髪を撫でられたレヴィは、テレンスに向かって僅かに首を傾げた。
「頑張り屋のレヴィならば、きっと全力を出してしまうだろう? 私はレヴィに無理をしてほしくないと思ったから、余裕のある者に治癒を頼んだのだ。私の可愛い人が倒れてしまっては困るからね?」
テレンスに愛おしそうに頭を撫でられ、レヴィは笑顔を向ける。
聞き耳を立てていたドレーゼ侯爵夫妻は、絶句していた。
テレンスは、レヴィとの婚約を解消するつもりがないことが伝わったのだろう。
喜ぶべきところなのだが、この時、レヴィは顔が引き攣らないように必死だった。
レヴィは『人ひとりを治癒するだけの能力すらない』と、言われたも同然だったのだから――。
テレンスの優しく残酷な言葉に、レヴィの心が傷付けられる。
それでもレヴィは、幸せを感じていた。
聖女として力がないから、無理をしないようにと気遣ってくれるテレンス。
本当に見えたのかは定かではないが、治癒の光がとても綺麗だと褒めてくれたベアテル。
真逆の行動を取ったふたりだが、テレンスもベアテルも、レヴィのことを大切に想ってくれているとわかったのだから……。
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