俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん

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17 初めての反省

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 いつも自分を気にかけていてくれた存在に手を叩かれて見放されたオリバーは、これでもかと目を見開いて呆然とする。

 オリバーの顔も見たくもないとそっぽを向くと、いきなり高笑いし始めたマイキーが俺を指差した。

「アハハハハッ! ようやく本性を現したな! オリーを簡単に見捨てた、この性悪野郎っ!」

 マイキーの的外れな発言に呆気に取られた俺だが「先に捨てたのはオリバーだろ」と、ジークハルト様の冷静な呟きが聞こえた。

 だが、その言葉を無視するマイキーは、ひたすらニマニマといやらしい笑みを浮かべる。

「面食いの僕があんたに惹かれなかった理由はね! オリーに散々、あんたの本性を聞かされていたからなんだよっ!」
「っ……マ、マイキー?」
「ね。オリー? いつも言ってたよね? 本当の子供でもないくせに、パパの愛情を独り占めして、オリーを仲間外れにしてるって! 澄ました顔で何でも簡単にやってのけて、お父様に褒められるのはいつもエレン。エレンと婚約したせいで、オリーはお父様に怒られてばかりで、寂しい思いをしてたんだよ?!」

 悲壮感たっぷりに語るマイキーは、呆然とする俺を穢らわしいものを見るように睨みつけた。

「それに、エレンはオリーのやることなすことに文句言って口煩い、母親ぶってウザいって!」

 思い込みの激しいマイキーだから、今の発言は真実なのかとオリバーを見ると、ばつの悪そうな顔で俺から視線を逸らした。

 その仕草で、オリバーは俺のことを口煩い母親だと疎ましく思っていたことが理解出来た。

 この十三年。
 恋愛対象として好きではなかったとは言え、オリバーの為にと行動してきた俺を全否定されて、俺の人生そのものが意味のないもののように思えた。

 見返りを求めて行動してきたわけではないけれど、なんとも言えない虚しい感情に苛まれる。

「……いい加減にしろよ」
 
 左隣から凄みのある声がしたが、俺は自嘲気味に笑った。

「俺にそんなつもりはなかったけど、今まで母親ぶって、口煩くしてごめん。もう二度としないから……」
「っ……エ、エレン、」
「俺は婚約破棄してもオリバーと友人でいたいと思っていたけど、オリバーは俺と同じ気持ちじゃなかったんだな。俺、鈍いから全然気付かなかった」
「ち、ちが、違うんだっ」
「今まで、ごめん、な……っ」

 優しく微笑む俺の瞳からは、静かに涙が零れ落ちる。

 その様子を見つめるオリバーは、ひゅっと息を呑んで、頬を紅潮させていた。

 引き寄せられるように、俺の頬に手を伸ばしたオリバー。

 だが、その手は俺の頬には届かなかった――。

「父上、離してくださいっ! エレンっ!」
「……オリバー。お前はすでに貴族ではない。気軽にエレンの名を呼ぶな。そして、エレンに触れることはこの私が決して許さない」

 レオンハルト様に手首を強く握られたオリバーは、痛みに顔を顰めた。

「今更エレンの魅力に気付いても遅いんだよ、バーカ」
「……お義兄様っ」
「うっ…………可愛いぃっっ!」

 オリバーに悪態をつくジークハルト様が、俺をぎゅっと抱きしめて、酷い泣き顔を晒さないように胸を貸してくれた。

 頼れる胸元にしがみつくと、今まで黙っていたマイキーがギャンギャン喚き出したけど、ジークハルト様が俺の耳を塞ぐ。

「婚約者を傷つけて、不貞を働いたお前達には、エレンに慰謝料を支払ってもらう」
「なっ! 僕はオリーとは結婚しないから、もう無関係でしょ! それに、なんで僕がエレンにお金を払わなきゃいけないの? 金持ちなんだから、別にいらないでしょ!?」
「お前じゃ話にならない。親を呼んで来い。お前の両親に慰謝料を請求する」
「はあ?! 両親にはもう貴族になるって言っちゃってるし、お金も使い込んじゃったよ!」
 
 ドサリとソファーにふんぞり返るマイキーは、未だに自分に非は無いと言い張っていた。

 せっかく耳を塞いでもらっているけど、声が大きすぎて丸聞こえだ。

 そんな中、項垂れていたオリバーが「支払います」と告げて、俺は驚きに顔を上げる。

「すぐには支払えないけど、働いて少しずつ払います。傷つけてごめん……」
 
 俺に婚約解消を願い出た時と同じように、誠心誠意謝るオリバーに、俺はにこりと微笑んだ。

「初めて反省してくれたね」
「…………ごめん」
「ううん、嬉しいよ。だから、慰謝料は気にしないで?」
「「エレン?!」」

 レオンハルト様とジークハルト様が、驚いたように俺の名前を呼ぶ。

「俺はオリバーを苦しめるつもりはないから。むしろ、平民にならなくても良いと思ってる」
「はあ?! ねぇ、エレン? 頭のおかしい奴と話してたから、エレンもおかしくなっちゃった?」

 俺の両頬に手を当てて、視線を合わせるジークハルト様の深海色の瞳は激しく揺れている。

「ふふっ、そうかもしれませんね?」
「…………マジで俺の婚約者になろう?」
「お断りします」
「即答かいっ!」

 俺の額に指先でツンと押したジークハルト様は、ぷくっと頬を膨らませて、可愛らしいお顔を披露する。

 俺がくすくすと笑っていると、「僕がなりますっ!」とマイキーが元気良く挙手していたけど、全力で無視するジークハルト様は、ひたすら俺の頬をむにむにと摘んで遊んでいた。











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