俺の婚約者は、頭の中がお花畑

ぽんちゃん

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6 出逢い

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 俺が五歳の時に初めて会ったレオンハルト様は、当時二十五歳。

 銀の貴公子と呼ばれる彼は、とても魅力的な大人の男性だった。

 父のエドワードは金の貴公子、レオンハルト様は銀の貴公子と呼ばれており、見目麗しい高位貴族の二人は、数多の男性から言い寄られていた。

 しかし、二人とも幼い頃から婚約者が決められており、自由に恋愛をすることなく政略結婚をした。

 クリストフ侯爵夫人はオリバーを産み、産後の肥立ちが悪く、お亡くなりになった。

 二人の間に愛があったのかは定かではないが、夫人が亡くなられた後、男性から言い寄られることが多々あった彼が再婚することはなかった。

 父はレオンハルト様を気遣い、よくクリストフ侯爵家に顔を出していた。

 そこで俺とオリバーが出会い、のほほんとした子犬のようなオリバーの面倒を見ていた。

 二人の父親は政略結婚をしているから、自分たちの子供には好きな相手と結ばれて欲しいという気持ちが強かったらしい。

 しかし、俺は決してオリバーを好きになったことはない。
 
 ただの一度も。

 毎度オリバーがやらかして、俺がフォローする。

 その光景に、俺達が想い合っていると勘違いをした二人によって、婚約が決まったのだった。

 母を早くに亡くしたオリバーに、殊更優しく接するレオンハルト様。

 甘やかしていたわけではないのだろうけど、何年経ってもオリバーはとにかくポンコツだった。

 そのことを心配した父に、俺は幼い頃から厳しく育てられた。

 しでかしたオリバーをフォローするのではなく、ヘマをする前にオリバーの行動を予測し、食い止めるのが俺の役目。

 ……ハッキリ言って無茶苦茶だ。

 俺が口煩くなってしまったのは、あいつが何を言っても右から左で、何度も何度も同じ間違いをするだからだ。

 それでもいずれは我がブラッド侯爵家に嫁いで来るのだから、放置するわけにもいかず、我慢する日々を送っていた。



 そんなある日。

 十歳になった俺達は、格上である公爵家のお茶会に招待された。

 思ったことを口にするな、と事前に口を酸っぱくして注意していたはずのオリバーが、公爵家の子息に不敬な発言をした。

 目に入れても痛くないとばかりに愛されて育てられていた公爵子息は、泣いて癇癪を起こし、ちょっとした事件になった。

 そこで怒られるのがまた俺。
 なぜオリバーを止めなかったのか、と。

 お茶会に一緒に参加していたはずのオリバーが、勝手にフラフラと公爵家の屋敷内を徘徊し、その時出会った子息に『カエルみたいだね』と笑顔で言い放ったそうだ。

 動物が大好きなオリバーにとっては褒め言葉だったらしいのだが、蛙に例えられて喜ぶ人間はいないはずだ。

 少し考えたらわかるだろう。
 ……いや、考えなくてもわかる。

 俺は被害者の子息と両親に何度も頭を下げた。

 半泣きで必死に謝罪する俺に、被害者である公爵子息は俺の顔を立てて許して下さった。

 その後、俺が父に怒られている間、不敬な発言をした張本人は、のほほんとした顔で庭に飛んでいる蝶を愛でていた……。



 父に一頻り怒られたあと、悔しくて涙を堪えて庭の隅で蹲っていると、ぽんぽんと優しく頭を撫でられた。

 俺がどんなに頑張っても、父が俺の頭を撫でてくれたことはない。

 一体誰なんだろう。
 放っておいてほしい。

 そう思いながらゆっくりと振り返ると、優しい笑みを浮かべたレオンハルト様だった。

「ごめんね。私がオリバーを怒れないせいで、エレンを傷つけてしまったね……」
「……大丈夫、です」

 レオンハルト様は母親がいない息子達に対して、どこかしら引目を感じていることは、父からは聞いていた。

 それでも最初は、レオンハルト様は顔が良いだけで、父親としては失格だと思っていた。

「オリバーなんか、大嫌い……」
「うん」
「勉強も出来ない、努力もしない、他人に迷惑をかけてヘラヘラしてるオリバーが、大嫌い!」
「うん」
「お母様がいないからって、何でも許されるオリバーが、大っっ嫌い!」
「うん」

 ひたすらオリバーの悪口を言い続ける俺に、レオンハルト様は怒らずにうんうん、と俺の話を聞き続けた。

「そんなオリバーを許しているレオンハルト様は、もっと嫌い!!」

 キッと睨みつけると、いつも穏やかに笑っていたレオンハルト様が今にも泣きそうな顔をしていた。

 怒りに任せて言い過ぎてしまった。

 なんでもうんうんと聞いてくれていたレオンハルト様に、八つ当たりをしてしまった。

 あ、謝らないと……。

 そう思ったのに、初めて大人の男の人の泣きそうな顔を見た俺は、言葉を発することができなくなった。

「……私も、自分が嫌いだよ」

 俺の隣に腰を下ろして、遠くを見つめるレオンハルト様の横顔は、今まで見てきた誰よりも美しかった――。

 

 









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