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第十一章

254 大爆発

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 「イヴ兄様ッ!!!!」


 音が消えた世界に、俺の求めていた声が届く。

 ……幻聴?

 ぼんやりとしている俺の目の前が、真っ白になる。

 俺は、死んだ、のか……。

 そう思った瞬間、飛ぶように現れた人物の、純白のマントが靡いていた。

 会いたくて会いたくてたまらない人が、今、俺の目の前にいる。

 本物なのかを確かめたいのに、眩い閃光に、なにも見えなくなった。


 「ッ…………」


 唇に熱を感じて、意識が浮上する。

 金色の光は、天からの迎えだと思っていたのに、セオドアの波打つ髪だった。

 ギラギラと熱の孕む翡翠色の瞳からは、大粒の涙が流れている。

 なにも感じなかった体が、徐々に温かくなっていく。

 締め殺されそうなほど強く掻き抱かれているのに、すごく心地がいい。

 指一本動かせない俺に口付けるセオドアから、温かなものが流れ込んでくる。

 舌を絡めとられ、感覚が戻って来る。

 体内で力が循環し、気づけば俺たちを包み込む癒しの光が、大爆発を起こしていた。
 
 
 「っ…………はっ、ぁ……テ、ディーッ」
 

 カッと目を見開いたセオドアは、深く口付けていた動きを止める。

 「イヴ、兄様……っ」
 「……ん」

 俺がピンチの時には必ず駆けつけてくれるセオドアを見たら、安心して目頭が熱くなる。

 また泣き虫って言われるだろうけど、もう兄の威厳なんてどうだっていい。

 「テディーのおかげで……生き返った、みたい」

 嬉しくて嬉しくてたまらない俺は、泣きながらにこりと微笑んでいた。

 「ッ……」

 セオドアが息を呑み、爆発していた光が弾けた。

 天高く舞い上がっていた癒しの光が、雪と共に落ちて来て、ゆっくりと消えていく。

 
 何千と人が集まる大広場は静寂に包まれていた。

 ……が、その直後。

 地鳴りのような大歓声に、全身に鳥肌が立った。

 
 「「「ローランド国の救世主ッ! 癒しの聖女様っ! 勇者様っ! 万歳ッ!!!!」」」


 鼓膜が破れるぞと、苦情を言いたくなるほどの称賛の声は、俺たち二人に向けられていた。

 しばらく呆然としていたが、いつまでも止まない嵐のような声に、俺はこっぱずかしくなって、目をパチパチとさせて誤魔化す。

 でも、セオドアが駆けつけてくれたおかげで、疫病は消滅し、世界中の人々を癒すことが出来たはずだ。

 現に、俺が放っていた癒しの光は、消えているのだから。

 「すっからかんになったな……」

 セオドアに抱きしめられたままぽつりと呟くと、端正なお顔が、俺の疲れ切った顔を覗きこむ。

 「遅くなってすみません、イヴ兄様……」
 「来てくれて嬉しい。てっきり……いや、なんでもない」

 いつも感じていたセオドアからの温かな感情が、今は全く伝わって来ない。

 俺の溜め込んでいた力がなくなったからか、それとも……。

 悲しい現実を突きつけられたくなくて、俺は考えることやめた。

 せっかく苦しむ人々を癒すことが出来たのに、しんみりしている場合ではない。

 国民の大歓声に応えた方が良いだろうと、さっと顔を逸らすと、頬に手を当てられて、すぐにセオドアと視線が交わる。

 綺麗な翡翠色の瞳が、激しく揺れていることに気付いた時には、噛み付くように口付けられていた。

 「っ、ん、んんっ……はぁ、テディー……?」

 なんで急に、と問いかける前に、コツンと額がぶつかり、やけに真剣な表情のセオドアに見つめられる。


 「愛してます、イヴ兄様……。出逢った時から、ずっと……」


 少し掠れた声に、俺を愛して止まない気持ちが伝わって来る。

 そして、ゆっくりと片膝を立てたセオドアの姿に、俺は息を呑んだ。


 「今までは、兄弟としてたくさん思い出を作ってきましたが、これからは生涯の伴侶として、僕の傍にいて欲しいです。貴方の笑顔を守るためなら、僕はなんだって出来る。初めて出逢った日から、この気持ちは変わらない。そして、これからも変わることはないと断言出来ます。一生大切にすると誓います。僕と結婚してください」
 

 薄い唇が俺の手の甲に触れたまま、じっと見上げられて、俺の心臓は確実に止まった。

 王子様のような義弟の姿に見惚れていたが、ぺろりと手の甲を舐められて、俺は慌てて頷いた。

 嬉しそうに微笑んだセオドアが立ち上がり、優しく包み込むように抱きしめられる。

 「イヴ兄様、大好きっ!」
 「っ、俺も大好きだッ!!!!」

 怠い体を叱咤する俺は、逞しい背に腕を回した。

 幸せを噛み締めていると、いつのまにか静まり返っていた場が、ドッカンと盛り上がり出す。

 「っ……ぎやああああああァァ~~ッ!!!!」
 「嘘っ!? あの二人、恋人同士だったの!?」
 「どういうことッ!?!? 禁断の愛ッ!?」
 「奇跡の瞬間と同じくらい興奮したァ~!!」
 「僕たちのセオドア様がぁぁ~っ! でも、相手が癒しの聖女様なら、文句なしッ! ううぅぅ~」
 「かっこよすぎるだろッ!! あんな告白、俺もされたいぃ~~ッ!!」
 「なんにせよ、眼福だろッ!!」

 セオドアの信者の泣き叫ぶ声も聞こえたのだが、張本人は全く聞こえていない。

 なぜなら俺の耳元で、愛してると囁き続けているから……。

 今更ながら恥ずかしくなっている俺は、セオドアにしがみついたまま、肩に熱い顔を押しつけてぐりぐりとさせていた。

 「っ、うわっ」

 急に抱き上げられて驚いていると、俺を軽々と片手で抱っこするセオドアが、大歓声を上げる国民に向かって手を振っていた。

 めちゃくちゃ幸せそうな顔で。

 拍手喝采を浴び、セオドアと微笑み合った俺は、国民に向かって小さく手を振った。

 

 世界を救った癒しの聖女様と勇者様の伝説、そして大々的なプロポーズの話は、いつまでも語り継がれることになる。









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