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第十章

229 もう帰国? ※

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 満月が美しい夜、人々が眠りに落ちている深夜の癒しの聖女様の部屋では、宰相殿による不審者の身柄を拘束するための、特別講座が開かれていた。

 「不届き者を発見した場合、こうして捕縛するわけです」
 「なるほど。勉強になります」

 これは絶対に逃げ出せないなと、身を持って感じている俺は、縄で厳重に縛られている。

 「……って。俺を捕縛する必要はないと思いますけど」
 「縛り上げる相手が違うだけで、こうも魅力的に見えるとは……なんといやらしい……」
 「オイ。聞いてるのかよ、腹黒悪魔」

 仕事が忙しすぎて、俺との時間が取れないと嘆いていたランドルフ様。

 宰相になったばかりだし、仕方がないことなので付き合っているのだが……。

 拘束される俺を見て舌舐めずりをするランドルフ様は、残念なことに変態度が増していた。

 「次に、万が一、雌豚共に襲われた場合の対策講座を始めましょう」
 「それは別に良いんですけど……。今、さらっと酷いことを言いましたよね?」
 
 はて? と首を傾げる真顔のランドルフ様に、寝台の上に押し倒された。

 今日は一段と色っぽいランドルフ様は、マルベリー色の瞳が既に興奮状態であることが見て取れる。

 どこから調達したのか不明の、王子様が着るようなヒラヒラとした衣装を着せられている俺は、ぶるりと震えた。

 先に言っておくが、拘束されて興奮しているわけではない。

 なぜかスラックスは支給されず、足が剥き出しでスースーしていることが原因だ。

 ちなみに、下着だけは履かせてくれた。

 謎のこだわりのある変態がうっとりとした息を吐き、大きめの真っ白なシャツに手をかけた。

 新品のシルク生地のシャツの胸元をビリっと破かれて、驚きすぎて俺の目が点になる。

 「っ…………な、なんで」
 「なんでと言われましても……。イヴを可愛がるためでしょうか?」
 「ん、ぁッ!」

 シャツの隙間から顔を出す胸の飾りを摘まれて、ビクンと体が跳ねると、目を伏せたランドルフ様は、違う違うと首を振る。

 「襲われているのですから、喜んではいけません」
 「っ、喜んでない! 喜んでるのは、ラルフ様でしょうがッ! ンンッ」
 
 べろりと舌で舐め上げられて、たまらず声を漏らすと、俺の胸元に顔を寄せているランドルフ様が、シーッと口許に人差し指を立てる。

 目元を和らげていて、色っぽいのにあどけなさも感じる可愛らしいお顔なんだが……静かに、じゃないんだよ!

 巧みな舌使いに、快楽に弱い俺が声を我慢出来るわけがないだろうがっ!

 心の中で文句を垂れる俺は、色っぽい表情のランドルフ様から顔を背けて、必死に口を引き結ぶ。

 「んっ……んんっ……っ、ふぅっ……ン」

 身動きが出来ない状況で胸の飾りを丹念に可愛がられてしまい、下半身も反応してしまう。

 いやらしい手付きで腰を撫でまわされて、まだ序盤だというのに、中が疼く。

 たっぷりと時間をかけて愛撫されて、身動ぐ度に体に縄が食い込む。

 違和感しかなかったのに、今はその刺激すらも気持ち良くなってしまっている俺は、半泣きでランドルフ様に視線を送る。

 「男らしいと噂のイヴが、実は抱かれる側だなんて……雌豚共は想像もしていないでしょうね?」
 「っ…………それなら、今すぐ攻守交代しろよっ! いつでも抱いてやるっ!」

 悪態をつく俺だが、耳元で囁かれて、カッと頬が熱くなっている。

 そんな俺を見下ろして、愛おしそうに目を細めるランドルフ様に、何度も口付けられる。

 蕩けた顔で受け入れていると、もっと嫌がるようにと怒られてしまった。

 「んくッ……ゃ、ぁ……もぅ、だめっ……」
 「その言葉も言ってはいけませんよ? 余計に喜ばせるだけですからね?」

 出来ますよね? と俺の目尻に優しく口付けるランドルフ様に、俺はむっと口を尖らせた。

 「っ……じゃあ、俺は……どうしたら、いい、の……?」

 焦らされ続けて、今にも泣きそうな声が出てしまったが、さっと口許を手で隠したランドルフ様は、息を荒げ出した。

 「なんと恐ろしい……。イヴは口を開いてはいけません……。我慢強いはずが、私の理性が焼き切れそうです」
 
 俺は早く交わりたいと思っているのに、これでは練習にならないと、冷静になるように深呼吸をしている美形の変態を睨む。

 だが、なぜか喜びに満ちた表情になるランドルフ様は、両手で俺の胸の飾りを弄びながら、耳を舐め始めた。

 「ハァ……どんな表情も魅力的です」
 「ぁっ、んぁっ……ぁッ、んんぅッ……」
 「ふふっ、腰が揺れてますよ? こんなに簡単に堕ちてはいけません」
 「っ……ぁあッ、だって……んっ、相手が、ラルフさま、だからっ……んぁあッ!」

 じゅるじゅると激しく耳を犯される俺は、我慢出来ずに白濁が漏れて、新品の下穿きを汚した。

 駄目でしょうと叱られて、羞恥で震えていたのだが、変態講師はにこりと微笑みながら、俺の濡れた下着に頬擦りをしている。

 「若き宰相殿は、変態だって、言いふらしてやる……」
 「ふふふ。では私も、癒しの聖女様は、縛られて興奮してしまう変態だと噂を流しましょうか?」
 「っ、誰が興奮したって?!」
 「もう。そんなに興奮しないでください。私もつられて興奮してしまうじゃないですか」
 「~~っ、最初からぶっ飛んでただろうがっ!」
 
 ジタバタする俺を見下ろして、笑っているランドルフ様は、恋人を辱めることが楽しくて仕方がないらしい。

 深い溜息を吐く俺は、もう講座は終わりだと叫んで、拘束を解くように指示を出す。

 「王女様たちに捕まったところで、俺の体は反応しない自信がある」
 「薬を使われたらどうするんです?」
 「っ……そんな卑劣な行為には屈しない!」
 
 さすがにそれはやばいかもしれないと、想像しただけで冷や汗を掻いていると、安心してくださいと告げたランドルフ様が、俺の強張る頬を優しく撫でる。

 「彼女たちは、明日にはアルベニアに戻ることになりました」
 「…………は? ま、まさか、隣国の王族を脅したりなんてことは……していないですよね?」
 
 含み笑いをするランドルフ様に、戦々恐々としていたのだが、彼は首を横に振った。

 「私ではありません。帰国するように告げたのは、ライアン陛下ですが……。彼女たちを完膚なきまでに叩き潰したのは、です」

 予想外の人物の名前に、呆気に取られる。

 クラリッサ様は、側妃たちに疎まれて幽閉されていたし、王女様たちのことも、きっと怖がっていたはずだ。

 それに、明るくて優しいクラリッサ様が、気の強そうな王女様たちをコテンパンにする姿が想像出来なくて、俺はしばらく言葉を失っていた。
















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