上 下
240 / 280
第十章

225 ローテーション

しおりを挟む

 紅茶を飲んで少し落ち着いた俺は、フォスナー侯爵の話を聞くために姿勢を正した。

 「順を追って説明しますと、私はあの男を財務大臣の座から引き摺り下ろすために動いていたのですが……」
 「っ、え」
 
 話の初っ端から驚きすぎて、素っ頓狂な声が漏れてしまったが、フォスナー侯爵は気にしていない。

 「不正の証拠は、容易に入手することが出来ました」
 「……強っ」
 「ただ、処罰するとしても、謹慎や横領した金銭を返還する程度で済むような額でした。罷免させるには、より強力な手札が必要になると、彼の行動を監視していたのです」
 
 そこで、予想外の出来事が起こったと語るフォスナー侯爵は、眉間の皺が深くなる。

 そして、癒しの聖女様に関する機密事項を漏らしたのは、リズベルト財務大臣だった事がわかった。

 アルベニア国の人間から、金を巻き上げる魂胆なのだろう。

 だからあんなに必死だったのかと、先程の財務大臣の行動を思い出した俺は、げんなりとする。

 「アルベニア国から我が国に来訪するのは、国王陛下と王妃陛下だけではありません。全てのが、癒しの聖女様との謁見を求めています」
 
 なぜ王女だけなんだと疑問に思うが、クラリッサ様のように、なにか重篤な病なのかもしれない。
 
 「その……王女様たちは、病か怪我でも?」
 「いえ。健康そのものです。そして三人の側妃も、訪問予定です。癒しの力で、肌艶を良くして欲しいそうです」
 「…………正気ですか?」

 自分でなんとかしろよと思わず呟いたが、フォスナー侯爵も俺に同意していた。

 側妃たちは、癒しの力で王妃様だけが美しくなることが不満らしく、強引について来たらしい。

 彼女たちは、癒しの力で若返ることができると思っているらしいが、美肌効果があるのかは俺だって知らないぞっ!?

 くだらないと鼻で笑ったフォスナー侯爵は、神聖な力に対して、よくそんなことを言い出せたものだと、なぜか俺よりブチギレていた。

 絶対に一人にならないようにと釘を刺され、そこは専属騎士様がいるから大丈夫だと頷く。

 「なるほど。色仕掛けか」
 「……へ!?」

 フォスナー侯爵の話を最後まで聞かずとも、なにかを悟った様子のエリオット様は、露骨に嫌な表情を浮かべている。

 「癒しの聖女様の伴侶にと、熱望しているようです。王女だけでなく、側妃も……」
 「いや、無理です」

 それ以上は聞きたくないとばかりに、俺は即座に拒否する。

 詳しく話を聞けば、俺には見目麗しい婚約者が三人もいるから、今代の癒しの聖女様は、相手が美しい人なら誰でも受け入れる、尻軽だと思われているようだ。

 専属騎士様に、王太子殿下、宰相と、次々と美形に手を出す、性に奔放な野郎だと勘違いをしているらしい。

 むしろ、俺が美形な恋人たちに振り回されている気がするんだが……。

 またしても魔性の存在だと誤認されているのかと、俺は遠くを見つめる。

 「今代の癒しの聖女様が、男気に溢れる人物だと噂が流れております故、女性に恥をかかせるようなことはないと思い込んでいるようです」
 「へ、へぇ……。ってまさか、来るもの拒まずだと思われてます?!」

 返事をしないフォスナー侯爵に、なにか言えよ! と心の中で叫ぶ。

 「癒しの聖女様と結ばれたことにより、不思議な力を得ることが出来るという情報も、既に知られている可能性が高いです」
 「…………あのおっさん、全部喋ってるじゃないですか」

 属国とはいえ、そんな簡単に話して良いことではないと思う。

 ということは、情報を売って金にしたのか?

 もしそうなら、国家反逆罪とかなんとかで、さっさと捕縛しようぜ!? と提案したのだが……。

 財務大臣も馬鹿ではないので、自分が黒幕だとバレないように策を講じているし、罪を被せる身代わりまで用意している徹底ぶりらしい。

 なんとかして証拠を掴むから、しばらくはなにも知らないふりをして、俺は王女様たちの前ではニコニコ笑っていて欲しいそうだ。

 「打ち解けることは難しいと思いますが、なんとかやってみます」
 「はい、よろしくお願い致します。先方は、どうにかして癒しの聖女様と結ばれようと動いてくると思いますので、ご留意くださいますようお願い申し上げます」
 「っ…………無理だっ」

 俺は王女様たちに襲われてしまうのかと身震いしていると、なぜかエリオット様が笑い始める。

 「向こうはどうやら、イヴがだということを知らないようだ。一番大切な情報が抜けているな? ククッ……」
 「っ、エリオット様っ!」

 赤裸々な事情を話すなと憤慨する俺は、呑気に笑っているお方にじっとりとした目を向ける。

 「そういうことでしたら、安心して調査を──」
 「いや。一秒でも早くお願いしますね?」
 
 口許をひくつかせるフォスナー侯爵が頷く。

 癒しの聖女様が愛情を受け取る側だとわかっていて、今話に乗ってきたよな!?

 俺のツッコミ待ちだったわけじゃないよな!?

 じっと観察すると、なぜか照れ始めるフォスナー侯爵は、それからセオドアのことを語り出し、ちゃっかりと俺のご機嫌取りをして帰って行った。



 そして、公務を終えたジュリアス殿下とランドルフ様が俺の部屋に集合し、先程の話を聞き終えて、深刻な面持ちで今後の対策を練り始めた。

 「ふふっ、私の出番だね? ランドルフは刺客を追い返せないだろうから、大人しくしてて」
 「なにを馬鹿なことを。この一年、イヴを守るために鍛えて来たのです。今では貴方のことも暗殺できますよ?」
 「はっ。たった一年で私に敵うと思っているだなんて、この国の宰相はどうかしてる」
 「貴方にだけは言われたくありません」

 ジュリアス殿下とランドルフ様が口論し始め、エリオット様が二人を仲裁する……のかと思いきや、『私が毎晩イヴの傍にいるから安心しろ』と二人を煽る。

 確かにエリオット様が最強なのだが、二人が納得することはなく、話し合いは深夜まで続いた。

 そして、ローテーションが決まった。

 就寝時に誰が俺と添い寝をするのかという、酷く迷惑なローテーションが……。

 
 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

処理中です...