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第九章
212 驚くことか? リアム
しおりを挟む思わぬ形で式典が終わりを迎え、癒しの聖女様が去った後の大ホールでは、何食わぬ顔で酒を飲みながら話に花を咲かせる騎士たちを他所に、状況を飲み込めていない貴族たちの嘆きが聞こえてくる。
どんなことがあっても、決して表情には出さず、凛とした姿を見せるのが高位貴族だというのに。
今後は他国の人間も癒しの聖女様の恩恵を受けに、こぞってローランド国を訪れることになる。
その時は我が国の恥を晒すことのないようにと、睨みを利かせた。
「まったく。品位の欠片も無い」
「リアムにだけは言われたくないと思うよぉ?」
「っ……兄上! 急に現れないでくださいと、何度も申し上げているでしょう。私は心の臓が弱いのですっ!」
突如として背後から現れたロミオ兄上のせいで、私の仮面は剥がれてしまった。
自慢の金髪が、本日は一層輝いていることを目視し、相変わらずだと微笑みを浮かべた。
兄はクライン公爵家の優秀な嫡男だが、病弱な次男に家督を譲る予定の、少し変わった性格の人だ。
私は文官としてでもやっていけるというのに、欲がないというか、弟想いだというか……。
語尾を伸ばす口調に背筋に寒気が走るのだが、私の尊敬している兄である。
そんなロミオ兄上が妖艶に笑い、私の胸元を指先でツンと押した。
「もう大丈夫なんじゃない? さっき、イヴ君が癒してくれたと思うけど?」
「なっ……!?」
その言葉に驚いたが、確かに体が軽い気がするし、少し歩いたところで息切れをすることもない。
さすがは私の崇拝するお方の血を引いている。
私が健康体になれば、ずっと心配をかけていた両親も喜んでくれるだろうと、癒しの聖女様には個人的にお礼を述べようと誓った。
そしてなにより……。
「これで、ガリレオ殿の弟子になることがっ!」
「それとこれとは話が別だと思う」
「っ、失礼な! 私はずっとガリレオ殿だけを追いかけて来たのですっ! これで、どこまでもついて行くことが出来るっ!」
「……本気で迷惑だろ」
不機嫌そうな低い声を出す兄上は、レイドの邪魔をするなと、口を酸っぱくして告げてくるのだ。
ガリレオ殿が私の弟と、良い雰囲気になっているらしいが、別に嫉妬などしていない。
……いや、嘘だけど。
少しは気になるが、私はこの国の英雄と恋仲になりたいと思うような図々しい性格ではない。
それ以前に、いつも緊張しすぎて心の臓が破裂しそうになり、会話が出来ないのだ。
ただ、癒しの聖女様のおかげで、今後は普通に会話をすることができ、更には親族になれる可能性もあるのだ。
良いこと尽くしだろうと、ニヤけた顔を晒す。
「リアムは癒しの聖女様の正体を知らなかったのに、驚かなかったよね? つまらないなぁ~」
人を揶揄うことが趣味な兄上に、呆れた目を向ける。
そして、私たちの会話に聞き耳を立てている者にも聞こえるような声量で返答する。
「驚くようなことですか? 私はガリレオ殿の信者ですよ? 常にあのお方を見ていたのです。つまり、御子息の動向も全て視界に入っていたのです。癒しの聖女様が、噂のような人物ではないことくらい、とうの昔から知っていましたよ」
当たり前のように答えた私に、周囲の人間が息を呑む。
「あははっ。そっか、そっかぁ~! さすが僕の弟ッ! 見る目があるよね~!」
「ハッ。見る目もなにも、彼は騎士としても毎日欠かさず訓練をしていましたし、自身の欠点を認める事が出来る人物です。努力の塊のような人ですよ? イヴ・セオフィロス様は……。彼が、魔物の王を討伐するという偉業を成し遂げたと聞き、驚くと言うよりは納得でしたけどね?」
「うんうん! 最高だよ、リアムッ! クライン公爵家は安泰だねぇ~!」
満面の笑みの兄が、私の肩に手を置く。
兄上を楽しませることが出来たと確信して、自然と口角が上がっていた。
「そんなことより、ガリレオ殿はどこです?」
「ああ。勇者殿なら、王都に向かっている途中で人助けをして、遅れているみたいだよぉ~」
「っ、またですか……。でも、そんな優しいところも、素敵だ……」
「いやいや、式典には間に合うように出席しないと駄目でしょ。さすがの僕でも遅刻しないよぉ」
「ハァ~、情けない。第三騎士団の副団長の座に就いているというのに……。兄上は、困っている国民を見捨てるような人間だったのですか?」
げぇっと、嫌そうな表情を隠しもしないロミオ兄上は、私に背を向けて赤ワインを呷る。
「ガリレオ殿にとって、相手の身分は関係ないのです。きっと、癒しの聖女様も同じ考えですよ?」
ガリレオ殿にお目にかかれない鬱憤を晴らすように、フッと鼻で嗤ってやる。
私の発言に、そんなことがあるはずがないと思っている貴族が大半だったが、顔色は優れなかった。
近いうちにわかりますよと呟くと、ロズウェル団長たちの婚約に納得出来ずにいた若者たちも、いつのまにか静かになっていた。
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