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第九章

201 婚約、しようか ※

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 「魔物の王を葬った相手に、誰も手を出すことは出来ないとは思うけど……。王太子妃の地位があった方が、イヴを守れると思うんだ」
 
 真剣な声色で告げたローランド国の王子様は、腕の中にいる癒しの聖女様が頷くまで、何度も口付けを落とす。

 「今までは、魔物が一番厄介な相手だったけど、今度は人間なんだよ……。悲しいことにね? 癒しの聖女様を手に入れようと画策する輩が、腐るほど湧いて出て来るんだ。だから、私と結婚しよう?」

 そう言って、王子様スマイルを披露したジュリアス殿下に、頬を撫でられる。

 濃い百合の香りに、頭がぼんやりとしながら見惚れる俺は、思わず頷きそうになって、慌てて目を閉じた。

 するりと柔らかなタッチで触れる手が、俺のツンと尖った胸の飾りを、くりくりと弄ぶ。

 「ひぁッ! ジュリアスッ、そこは、やめろって……んぅっ」
 「良い? 私のプロポーズを受けてくれるってことで、良いよね? だって、中がすごくキュンキュンしてる」
 「っ……誰か、馬鹿王子のぶっ飛んだ頭のネジを、拾ってきてくれ……ンッ、はぁ……ぁあっ」

 悪態をつく俺だが、蕩けた表情を隠しきれない。

 そんな俺を眺めながらモゾモゾと下がっていき、俺の胸の飾りを勿体ぶるように、べろりと舐めるジュリアス殿下。

 ギラギラと熱の孕む碧眼に見つめられ、ぞくりと興奮する俺は、浅いところを行き来する陰茎を締め付けた。

 「ふふふ。こんな蕩けた顔をした可愛いイヴが、まさか魔物の王を倒しちゃっただなんて……。今でも信じられないよ。これ以上、私を魅了しないで欲しいのに……」
 「んあッ……んっ、んんぅッ……」

 わざと胸の飾りを口に含みながら話すジュリアス殿下の歯に優しく弾かれて、甘い吐息を漏らした。



 上掛けを頭まで被って、隠れるように寝台の上で絡み合う俺たちは、ゆったりと交わっていた。

 いつも暴走気味のジュリアス殿下だが、今は俺の体調を心配していることが手に取るようにわかる。

 だが、焦らされ続けている俺は、心の奥ではいつものように激しく求めて欲しいと願っていた。

 指通りの良い金色の髪を梳かすと、思いやりのある俺の恋人は、心地良さそうに口許を緩ませた。

 「わかってるよ、急に言われても無理だよね? 私と婚姻したら、いずれは王妃になるんだ。不安に決まってるよね? 癒しの聖女様に文句を言う奴はいないと思うけど、それでもイヴは責任感が強いから……。どんなに辛くても、無理しちゃう未来が予想出来る。でも、私が全力で支えるつもりだよ?」

 俺の不安も、全て知り尽くしているかのように語ったジュリアス殿下は、にこりと微笑む。

 だが、冷静を装っている彼が、すごく焦っている気持ちが、俺には伝わって来ていた。

 平和が訪れて、俺とエリオット様が婚姻したら、自分たちは俺と結ばることはないのかもしれないと、不安になっているんだと思う。

 人の感情に疎い俺だけど、大切な人のことだけは、しっかり見ているつもりだ。

 最初は、癒しの力のために協力してもらう形だったけど、俺はジュリアス殿下のことが大好きだ。

 みんなの力を借りて、魔物の王を討伐するという偉業を成し遂げたら、ハイさよなら。なんて、ありえないだろう。

 いつもなら、捨てられた子犬のような目で見てくるのに、こういう時は狡い顔をして来ない。

 そんな男らしいところが、彼の魅力をさらに引き立たせている。

 俺が、より好きな気持ちを募らせていることに気付いていないジュリアス殿下は、優しい言葉を紡ぎ続ける。

 完璧な微笑みの仮面をつけている俺の恋人は、婚姻については気にしなくて良いと、話を締め括ろうとしていた。

 「それに、セオドアの件もあるしね? イヴの考えてることくらい──」


 「婚約、しようか」


 話を遮るように告げると、ジュリアス殿下が息を呑んだ。

 目を見開いている恋人に微笑みかけると同時に、中の陰茎が嵩を増して、俺の口からは甘ったるい声が漏れた。

 かっこよく決めるつもりが、羞恥でじわりと頬が熱くなる。

 暑いのは上掛けを被っているせいだと思い込んでいるうちに、ジュリアス殿下がバサリと勢いよく上掛けを剥ぎ取った。

 癒しの聖女様が静養する部屋に差し込む、夕日の茜色が、交わった時より一層濃くなっていた。

 温かな色に照らされた、美しい肉体に見入っていると、俺を組み敷く王子様の目付きが鋭くなる。

 「ごめんね、イヴ。今日は優しくするつもりだったけど、無理かもしれない……」

 支配するような目で見下ろされるだけで、ぞくぞくとしてしまう俺は、そっと両手を広げた。

 口付けを強請っているのだと察した様子のジュリアス殿下が、俺の顔を囲うように手を置き、唇が重なる。

 「んっ……愛してる、ジュリアス」
 「っ、どうしようっ……死にそうなほど、嬉しいっ……暴走しても、嫌いにならないでっ」
 「ククッ……嫌いになんかならない。ジュリアスを、愛おしいと思う気持ちで溢れてる……。どうやったら嫌いになれるのか、教えてくれよ」
 「っ、」
 「………………もう、泣くなよ」

 何度も頷くジュリアス殿下は、俺にキスをしながら、すっごく嬉しそうな顔で泣いていた。

 いつもは俺が涙を吸われていたけど、今日は俺が彼の赤くなる目尻に、たくさん口付けをした。

 なかなか泣き止まない、可愛い恋人の涙が枯れるまで、何度も何度も……。
 
 まったりと流れる時間が心地良くて、俺たちは飽きることなく口付けを交わし、微笑み合っていた。












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