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第三章
72 嬉しい ※
しおりを挟む危なかった、と呟くエリオット様の額から、ぽたりと汗がこぼれ落ちる。
「はあ……イヴ、大丈夫か?」
俺を心配してくれる優しい声にゆるりと頷き、震える手でエリオット様の額の汗を拭う。
険しい表情だったエリオット様が、至極嬉しそうに微笑む。
少し苦しいが、俺も自然と笑みを浮かべていた。
「もう少し、こうしていようか」
「……大丈夫」
「ふっ、気を遣わなくていい」
「――エリーこそ……」
俺の中でドクドクと脈打つ陰茎を感じて、思わず甘ったるい息を吐く。
「っ、気を抜いたら出そうだ」
唇を噛むエリオット様の表情は険しいが、俺は既に達してしまっており、視線を泳がせる。
俺の様子がおかしいことにすぐに気付いたエリオット様が、僅かに腰を引く。
「あ、ンッ……」
「悪い。平気か?」
「ふぅ……は、はい……」
少し距離が出来て、二人の身体の間にこっそりと手を滑らせ、出てしまった白濁がバレないように隠蔽する。
軽く首を傾げたエリオット様の視線が下腹部に移動し、ゆっくりと戻って来る。
驚きに目を丸くする美丈夫に見下ろされ、俺はじわじわと頬が熱くなる。
「っ、可愛すぎる、私を殺す気か……」
「ぇ?」
「はあ……イヴ……。繋がれて嬉しい」
「……お、俺も。うれしい、です」
恥ずかしすぎるが、弱々しくもにこりと微笑むと、エリオット様が天井を見上げる。
漆黒の髪を掻き上げ、俺を組み敷いて色気を爆発させる美丈夫を、俺は瞬きも忘れて見惚れていた。
上体を起こして「動くぞ」と短く告げた声と共に、埋もれていた陰茎が引き抜かれ、ぐっと突き上げられる。
「っ……あぁああッ!」
今までにない突き抜けるような快感に、自然と体が痙攣する。
ゆっくりとした動きが段々と大胆になり、ずちゅずちゅといやらしい水音が、やけに大きく響く。
「ひぁあッ! あっ……あっ……ぁあっ……んッ……や、やぁッ……だめ、だめっ……あァッ!」
怖いくらいに気持ち良くて、いやいやと首を振ると、生理的な涙がぼろぼろと溢れた。
身を屈めたエリオット様が俺の目尻に口付けるが、角度が変わってびくんと体が跳ねる。
「はっ、イヴ……っ……好きだ」
「んんぁ……ンッ……ンンンッ」
激しく唇を貪られて、しっとりと汗に濡れる背中にしがみついた。
ぱちゅんぱちゅんと肌のぶつかる音が酷く淫らに感じて、喘ぐ声もより大きくなる。
「あっ……ぁあっ……も、……イクッ……」
「は、」
「ぁあっ、はぁっ……エリーっ……あ、あンッ!」
名前を呼ぶと、ガツンと奥を突かれて、自分の声とは思えないような甘ったるい声が出ていた。
唸るような声で、イクぞと囁かれる。
起き上がろうとするエリオット様にしがみついたままでいると、顔中に口付けが降って来る。
離れて欲しくなくて、引き締まった体に足を巻き付けた。
「っ……イヴ」
淫らな息を吐くエリオット様が、目を細める。
狙ったようにしこりの部分を何度も突かれて、辛いくらいに気持ちが良い。
もう何も考えられなくて、ただ目の前の色っぽいエリオット様だけを見つめて、揺さぶられる。
「は、あっ……ぁあっ、エリー、エリーっ」
「つっ、イヴっ……」
余裕のない表情のエリオット様に掻き抱かれて、ガツガツと激しく突き上げられた。
「ひぅッ、イクッ、イクッ、だめっ、奥、だめぇっ、あっ、ぁあっ、んぁああァ────ッ!!」
中でドクドクと熱い飛沫が出されたのを感じて、目の前が真っ白になった。
荒い息遣いを聞きながら、止まることのない長い絶頂に身を震わせる。
あっという間に思えたが、ただひたすら気持ちよかった……。
とろけた脳も体も動かなくて、徐々に瞼が落ちていく。
労わるように優しく頭を撫でられて、とても心地よい。
もっとくっついていたいのに、しがみついていた手足の力が抜けていく。
「イヴ……」
腰に響く甘い声を聞きながら、俺は意識を手放していた――。
◇
大きな手の温もりが心地良くて、薄らと目を開けると、美しい胸筋が視界に広がる。
「ん……」
「大丈夫か?」
寝ぼけたままこくりと頷くと、エリオット様は心底安心したような声で「よかった……」と囁く。
暫くぼんやりとしていたが、汗やら白濁やらで汚れていた体が、さっぱりとしていることに気が付いた。
「っ、すみません、俺……寝てました?」
「ああ、涎を垂らして可愛い顔で寝てたぞ?」
「うっ……」
冗談だと笑うエリオット様を見上げると、すぐさま口付けられる。
蕩けるような表情で頬を撫でられて、眼福だと思いながら目がとろんとする。
「体は辛くないか? 腹は? 中に出すつもりじゃなかったんだが……悪い」
今の言葉でいろいろと思い出した俺は、じわじわと羞恥に苛まれる。
「ククッ、イヴが離してくれなくてな?」
「うっ……」
「私も我慢できずにすまなかった」
「…………べ、別に、中に出してくれて、構いませんでしたけど。気持ち良かったし……」
羞恥を隠すように、無愛想なまでに返答する。
視線を逸らし、真っ赤であろう顔を俯かせると、ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
「私も最高に気持ち良かった」
「っ、」
「イヴが煽って来るから、何度ももっていかれそうになった。もう少し耐えるつもりだったんだがな、甘えるイヴが可愛すぎて……」
これ以上自分の痴態を聞いていられずに、俺は身体を捩って、あーあー言いながら耳を塞ぐ。
確かに俺から話を振ったが、エリオット様の口から饒舌に語られると、どうにも耐えきれなかった。
切れ長の目を丸くしてきょとんとしたエリオット様が、腹を抱えて笑い出す。
俺がぶすっとしながら睨んでいると、可愛い顔で一頻り笑ったお方は、謝りながら俺の頭を撫でる。
「水飲むか?」
黙って頷くと、笑いを堪えるエリオット様がさっと起き上がる。
俺は疲労困憊だというのに、随分と余裕そうだ。
何気無しに視線を送ると、綺麗な背筋に赤色の引っ掻き傷がいくつも浮かんでいた。
血の気が引く俺は、勢い良く起き上がる。
下半身がずっしりと重く感じたが、今はそれどころでは無い。
「イヴ?」
「っ、エリオット様、すみません……あの、背中に……俺っ」
「ああ。別に気にならないぞ?」
軽く笑い飛ばすエリオット様が、水を用意してくれる。
申し訳ないと思うのだが、喉がカラカラに乾いていた俺は、一気に水を飲み干した。
癒しの力で治すほどの傷ではないが……。
エリオット様の体に傷をつけてしまった俺は、罪悪感に苛まれる。
「魔物すら傷付けられないお体を、俺が傷付けてしまうだなんて……」
「ふっ、イヴにならどれだけ傷付けられても良いがな? また色っぽい顔が見れるなら」
「っ…………ば、馬鹿だ」
くつくつと笑う上機嫌なエリオット様は、全く気にしていない様子で、空になったグラスを片付けてくれた。
それから優しく寝かせてくれ、抱きしめられる。
そんなことより、俺の体は大丈夫かと心配し続けるエリオット様。
最終的には、辛いなら仕事を休めと言い出すのだから、本当に過保護だと思う。
まだ起きるには時間があるようで、ゆっくり眠っていいと、優しく髪を撫でられる。
「エリオット様こそ、寝ていないんじゃないですか?」
「ああ、イヴが心配でな……。一応、掻き出したが……」
「ん?」
「ククッ、なんでもない」
労わるように、腰を撫でられる。
とにかく優しすぎるし、雰囲気もいつもより甘くて、恥ずかしくなる。
でも、すごく濃厚な時間だったし、相手がエリオット様で本当に良かったと思う。
胸元からちらりと顔を上げて、穏やかに微笑むエリオット様を覗き見る。
触れるだけの口付けを送ったのだが、なぜか恥ずかしくてたまらない俺は、再度胸元に顔を埋めた。
「お、おやすみなさい……っ」
無言になるエリオット様の腕の力が強くなる。
悩ましいような溜息を吐き、俺の頭に頬を寄せるエリオット様が、おやすみと囁く。
もう少し話したかったが、疲労感に襲われて、すぐに微睡む。
まるで本当の恋人同士のような色事の後は、とても現実とは思えないほど心地良かった。
頭上からは小さく「あいしてる」と、俺の都合の良い幻聴までも聞こえてくる。
自然と口角が上がり、幸せな気持ちのまま深い眠りに落ちていた――。
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