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第二章
39 なぜだ
しおりを挟む確実に第四騎士団に入隊出来ると高を括っていた俺は、予想外のことに頭を抱えていた。
皆の憧憬の人であるエリオット様が所属する、超エリート集団の仲間入りをしてしまったのだ。
確かに、第二希望は第一騎士団と記入した。
記入したが、第二騎士団は俺を毛嫌う選民思想軍団だし、第三騎士団は変態軍団。
……論外だ。
必然的にエリオット様のいる第一騎士団と記入しただけであって、まさか入隊することになるなんて思ってもみなかった。
第一騎士団団長になるということは、四つの部隊を総括することになる。
つまり、ローランド国の騎士達の頂点だ。
学園のエリート組だけでなく、平凡組、カス組までもが、受かる受からないを別として、第一希望は第一騎士団と記入する。
一番人気で、倍率が高いはずだ。
だがもしかしたら、セオドアが第二騎士団団長に就任する情報が漏れて、人気が分散された可能性もある。
そうでなければ、第一騎士団の面々から総スカンにあった俺が選ばれる意味がわからない。
とにかくエリオット様に話を聞きに行こうと、ギルバート様と共に第一騎士団の訓練場に向かったのだが……。
過去一、最高の笑顔を見せるエリオット・ロズウェル騎士団長様を前にして、口を開くことが出来なかった。
「イヴには、救護班にも所属してもらうことになっている。稽古も毎日私が見るからな? イヴは紋章がなくとも、この国を担う立派な騎士になると確信している」
多大なまでに俺を高評価してくださるエリオット様は、脱力している俺の肩を、強く抱く。
「心配しなくても大丈夫だ。何かあれば、私の命にかえても、必ずイヴを守る」
端正なお顔を近づけて、蕩けるような笑みを浮かべるエリオット様は、唖然とする俺の耳元で甘く囁いた。
(……俺は、エリオット様の恋人にでもなったのだろうか?)
呆然とする俺の前では、以前フルシカトをしてきた第一騎士団員たちが最敬礼をしている。
…………なぜだ。
エリオット様にではなく、俺に向かって最敬礼の姿勢を取るエリート軍団を前にして、もう逃げることが出来ないと察した。
「足手纏いにならないよう、努めます……」
ぽつりと呟く俺に対して、顔を上げたエリート軍団が、皆一様に安堵の笑みを浮かべる。
急激なまでの変わりように、頬が引き攣る。
その後は、学園のエリート組の生徒達から、刺さるような視線を背に受けながら、満面の笑みのエリオット様に、手取り足取り指導をしていただいた。
自分自身でも分かる程、短時間で実力が上がった気がする。
だが、俺の立場をもう少し考えて欲しかった。
……いや。エリオット様は断じて悪くない。
勇者の息子なのに、情けないほど弱く、皆を遠ざけ、自ら孤立した俺が招いた結果である――。
いろんな意味で疲弊した俺は、結局どうして第一に所属することになったのか理由を聞くことも出来ず、すごすごと家に帰宅した。
寝る前に今日指導していただいたことの復習をしつつ、大切なことはノートに記入していく。
幼い頃から憧れていた、エリオット様専用のノートだ。
パラパラと過去の指導内容を読み返して、エリオット様との思い出が走馬灯のように蘇る。
――エリオット様みたいな強い騎士になりたい。
――エリオット様のような、皆に慕われる騎士になりたい。
――エリオット様に守られるだけじゃなく、いつかエリオット様をお守りしたい。
小さい頃からエリオット様、エリオット様と、後を追いかけていた身の程知らずの自分自身を思い出して、泣けてくる。
いつも先を歩くエリオット様は、俺が呼ぶと必ず振り返って、後をついてきているか確認し、優しく手を引いてくれた。
本当の兄と慕い、師匠であり、尊敬するお方。
エリオット様の期待に応えたいと努力する日々は、辛くもあったが、常に俺の高い目標だった。
俺を支えてくれるエリオット様の存在があったからこそ、頑張り続けることが出来たと言っても過言ではない。
そのお方に急に口付けられたことを思い出して、顔が熱くなる。
あの時は突然のことで戸惑いの方が大きかったが、全く嫌じゃなかった。
むしろ、心臓がバックバクで、このまま流されて抱かれても良いくらいに思っていた。
相手がエリオット様なら、一度の過ちでも、俺の処女を喜んで差し出すくらいの心構えだった。
「変態か、俺は……」
師匠に対して、何を血迷ったことを考えているのかと、大慌てでかぶりを振る。
「イヴ兄様?」
「っ、テディー。寝る準備が出来たのか?」
「はいっ!」
チョコレート色のふわふわなガウンを着たセオドアは、既に俺と同じくらいの背丈に成長している。
もう小さな勇者とは呼べないな、と苦笑いする。
「第一に決まったんですね」
「……ああ。第四を希望していたんだがな」
「そうですか……。僕、学園を退学して、イヴ兄様と一緒に騎士団に入隊することにしました」
「……え?」
「第二騎士団の団長になれと言われて迷っていたんですけど。僕は、イヴ兄様とずっと一緒にいたいから……」
自信なさげに呟いたセオドアが、俺にぎゅっとしがみつく。
「テディー、無理しなくても……」
「みんなは僕が勇者だから強いと勘違いしていますけど……。僕はイヴ兄様がいないとダメダメな、お子ちゃまなんです……」
不安そうにするセオドアを前に、俺がメソメソしている場合ではない、と自分自身を鼓舞する。
セオドアの前では、頼れる兄でいたいんだ。
「テディー。外では第二騎士団団長様でも、家では泣き虫で甘えん坊の、俺の可愛い義弟だ。だから、安心して就任したら良い。名誉なことだぞ? 仕事が終われば、兄様がたっぷり甘やかすからな」
「っ……イヴ兄様っ! 大好きッ!」
「ああ、俺もだ」
「だから、寮の鍵を下さい」
「ああ、わかっ…………ん?」
約束。と、なかなか強い力で、強制的に指切りをさせられた俺は、僅かに首を傾げる。
「イヴ兄様は、ぬいぐるみがないと眠れない性分だって言ってましたよね?」
「……そうだな。む、昔の話だ」
「ふふっ、今もですよね?」
上目遣いをする可愛いセオドアは、桃色の頬を綻ばせている。
確かに言った。
あの時はセオドアとずっと一緒にいたかったし、年齢が年齢だったからだ。
間違いが起こることはないとは思うが、さすがに……いや、大丈夫か。
純粋無垢なセオドアを見つめ、不埒なことを考えることはやめた。
いつも通り、おやすみのキスをして眠りにつく。
夜中になんだか胸元が擽ったい気がして目を覚ますと、セオドアが俺の胸元に顔を埋めて、すぅすぅと寝息を立てていた。
可愛いな、と思いながらふわふわな髪をよしよしと撫でて、再度眠りにつく。
微睡む中、ぴちゃぴちゃと水音が聞こえた気もするが、雨が降っているのかもしれない。
精神的に疲労していた俺は、ピュアな義弟に、胸の飾りをいじられていることにも気付かずに、爆睡するのだった。
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