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43 お互いのことが大好きすぎる……?
しおりを挟む光溢れるグランディエ公爵邸から、耳に心地の良い音楽と、楽しげな話し声が聞こえて来る。
およそ一年半ぶりに帰って来た邸では、レイチェルとエミリオが主役のパーティーが開かれていた。
輪の中心にいるのは、レイチェルを抱くジョナスと、エミリオを抱くフランシーヌだ。
ふたりの周りには、ラヴィーン一家だけでなく、ダリウスや使用人たちも、双子を抱きたいと順番待ちをしていた。
「レイチェル~! 私のところにもおいで。ジョナス様だけじゃなくて、私もお爺様だよ~! ……おーい、聞こえてるかい? レイチェル~?」
孫を抱きたくて仕方がないハリソンが、レイチェルに声をかけ続ける。
そして抱っこするのだが、ハリソンにキスをされまくったレイチェルは、すぐにジョナスに手を伸ばす。
(ふふっ。ジョナス様、レイチェルに懐かれて、すごく嬉しそうっ!)
ジョナスの腕に抱かれると、レイチェルは落ち着くようだ。
そして、双子の子守りをしたいからと、昔のように鍛え始めたジョナスは、生き生きとしていた。
(あの調子じゃ、僕はもうお役御免だなっ)
フレイのマシュマロのようなほっぺが大好きだったはずのジョナスは、今は双子に夢中である。
頬ずりをして、ほっこりとしている。
そんなジョナスを見ているだけで、フレイも幸せな気持ちになっていた。
そして会場には、貴族からのお祝いの贈り物も届いている。
国王陛下も大層お喜びになっているそうで、英雄の血を引く子ということもあり、双子の存在は歓迎されていた。
「レイチェルとエミリオへの贈り物でいっぱいだね。明日にでも、お礼状を書こうか」
そう言って、正装姿がクールなヴァレリオが、甘い微笑みを浮かべる。
パーティーの最中だが、フレイはほうっと見惚れていた。
(僕を探しに来てくれたあの日から、ヴァレリオ様が以前よりも輝いて見える……)
フレイが他国の貴族に言い寄られていた際に、ヒーローのように現れたヴァレリオが素敵すぎて、フレイは夫に惚れ直していた。
「フレイ? どうしたの?」
「っ、あ、はいっ! お礼状は、僕にやらせてくださいっ」
フレイは姿勢を正す。
一度は逃げ出してしまったが、ヴァレリオの妻として、一からやり直したい。
その想いが伝わったのか、ヴァレリオが優しげに微笑んだ。
「公爵夫人の仕事は、フレイ以外にお願いするつもりはないよ」
「――……ッ!」
随分と甘い声で囁いたヴァレリオに、そっと引き寄せられる。
まるで愛の告白のように聞こえたのは、きっと気のせいではないだろう。
(っ、僕以外の人を愛するつもりはないと、そう仰ってくださったんだよね……?)
一年もの間、フレイを探し続け、見つけ出したヴァレリオの行動から、ヴァレリオの気持ちを疑ってはいるわけではない。
ただ、フレイが思っている以上に愛されていることが、今でも夢のようだった。
「でも無理はしないでね、いつでも手伝うから」
「はいっ、頑張りますっ!」
優しい言葉をかけてくれるヴァレリオに、フレイはにっこりと微笑んだ。
それからふたりで、パーティー会場を抜け出す。
会えなかった一年間の、積もる話をするのだ。
でも……。
(どうしようっ。何を話したらいいんだろうっ、久々すぎて、緊張しちゃう……)
皆が率先してレイチェルとエミリオの子守りをしてくれるおかげで、久しぶりにヴァレリオとふたりきりの時間だ。
ヴァレリオの部屋に行き、ソファに腰掛ける。
今日はヴァレリオが珈琲を淹れてくれ、お菓子を用意してくれていた。
「これ、フレイが好きだったよね?」
「っ、うわぁ! 可愛いっ!」
ガラステーブルに置かれたのは、お皿いっぱいのハート型のチョコレートだ。
フレイが目を輝かせれば、ヴァレリオは自分のことのように嬉しそうに口元を綻ばせた。
「チョコレートを食べている時のフレイは、いつも幸せそうだったからね。会えない間、よく思い出していたんだ」
「っ、ヴァレリオ様……はむっ」
愛するヴァレリオが、あーん、をしてくれ、フレイの体は勝手に口を開けていた。
甘いチョコレートが舌の上で溶ける。
確かに美味しい。
(でも、僕はチョコが好きっていうより、ハートのチョコをもぐもぐするヴァレリオ様を見ているのが好きだったんだけど……。もしかして、勘違いしてる?)
「気に入ってもらえてよかった。たくさんあるから、好きなだけ食べてね」
「っ、あ、ありがとうございます」
置き物のようにソファ座ったままのフレイは、ヴァレリオに食べさせてもらう。
とても贅沢な時間だ。
「味は間違いないと思う。今年の世界大会で優勝したパティシエを引き抜いたんだ」
ヴァレリオがなんてことないようにサラリと告げたが、フレイは目玉が飛び出そうになった。
「…………へっ!? 世界大会で、優勝!?」
有名なパティシエを引き抜くには、大金が必要だったはずだ。
ヴァレリオは涼しい顔をしているが、フレイはハラハラしていた。
「っ、僕、チョコは好きですけどっ。そうじゃなくって……」
「ん?」
フレイが話すのを待ってくれる優しいヴァレリオに、フレイは意を決して本心を話すことにした。
「ぼ、僕が幸せそうにしていたのは、いつもクールなヴァレリオ様が、ハートのチョコをもぐもぐしている可愛らしい一面を見るのが、好きだったから、なんです……っ」
フレイが正直に白状すれば、ヴァレリオは目を点にさせていた。
それから、じわじわと頬が赤く染まっていく。
「っ、そっか、そうだったんだ……」
「あのっ、ごめんなさいっ。せっかく大金を払って、パティシエの方を雇ってくださったのに……」
「いや、雇って正解だった。うん、本当……ごめん、上手く言えないけど、舞い上がってる」
手で口元を隠しているが、ヴァレリオが喜んでいることが伝わって来る。
(もしかして僕たちって、実はお互いのことが大好きすぎる……?)
歓喜の雄叫びを我慢するフレイは、顔から火が吹き出そうになっていた。
「ごめんね、フレイ……。今日は、本当はふたりでたくさん話をしたかったんだけど……。触れてもいい?」
そう言って、顎をすくわれる。
熱っぽい瞳に見つめられ、ヴァレリオがしたいことがわかってしまったフレイは、恥ずかしさのあまり、ぎゅっと目をつぶっていた。
「っ……はぃっ。ンッ、」
返事をするや否や、口を塞がれる。
真っ赤になっているであろう顔が、熱くてたまらなかった。
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