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39 帰ろう

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 我が子を見ても、ヴァレリオが固まって動かない。
 その異様な空気に、ヘラヘラしていたケントの表情がサッと変わった。
 すぐさまエミリオをヴァレリオに渡し、一歩後退する。

「ほ、ほら。すごく大人しくて、いい子でしたよ。馬に乗っても、泣き声ひとつあげませんでしたからね? ヴァレリオ様に似て、肝がすわってますよねー……って、どういう空気? コレ……。俺、あとでしばかれちゃう?」

 そろそろと、ケントが逃げて行く。
 そして、しばらくエミリオの顔を見ていたヴァレリオが「――双子……?」と、つぶやいた。
 今も戸惑いを隠しきれないヴァレリオに、フレイはにっこりと笑った。


「――エミリオ・。レイチェルの双子の弟で、ヴァレリオ様の息子です、ひゃっ!」


 ヴァレリオに掻き抱かれ、唇を奪われる。
 久しぶりの口付けは、しょっぱい味がした。
 ヴァレリオが、泣いていたのだ。

「ごめんね、フレイっ。ひとりで、大変だったよね……っ。今思えば、フレイが毎日のように私の気持ちを確認していたのは、妊娠して不安だったからなんだ……。あの頃は、私も浮かれていて、フレイが可愛いとしか思っていなかったけど……そうか、そういうことだったのか……」

 ヴァレリオが、辛そうに唇を噛む。
 我が子がいることを知り、てっきり喜んでくれると思っていたが、ヴァレリオはまずフレイのことを考えてくれていたのだ。
 ヴァレリオの優しさに胸を打たれる。
 フレイの瞳にも涙があふれた。

「フレイのそばにいたかった……。不安にさせて、本当にごめんね。これからは、どんなことも話すから……」

「っ、僕の方こそ、ごめんなさいっ! ヴァレリオ様を、信じられなくて……っ」

 感情が堰を切って漏れ出す。
 男泣きするヴァレリオにしがみつくフレイも、うわーんと幼子のように声を上げて泣いていた。



 その後、フレイが泣いたことで、レイチェルとエミリオも大号泣してしまい、みんなであやすことになった。
 そして美男子好きなレイチェルは、ケントのことも気に入っていたが、やはり父親のヴァレリオの抱っこが一番落ち着いつくようだった。

「ヴァレリオ様は、きっと素敵なお父様になりますね」

「そ、そうかな?」

 娘に好かれて、嬉しそうに頬を緩めるヴァレリオを、フレイは優しく見守る。
 それから騎士たちも双子を抱っこし、可愛い可愛いと愛でていた。

「子どもは、こんなにも愛らしい存在なんだね。無条件で癒やされるよ」

 我が子が皆に愛されている光景を見て、ほっこりとしているヴァレリオに、フレイも同意する。
 優しく引き寄せられ、フレイはヴァレリオに寄りかかった。

「――父親だと認めてもらえて嬉しいよ。ありがとう、フレイ」

 髪やこめかみに口付けが降ってくる。
 くすぐったくて、でも嬉しくて、フレイはもじもじとしていた。
 だが、いくら双子を守るためとはいえ、『ヴァレリオには関係ない』と嘘をついたことは、謝罪しなければならない。

「っ、ごめんなさい。嘘をついて……」

「いや、いいんだ。私が隠し事をして、フレイを傷つけてしまったから……。そんな人間を、父親だとは認めたくないよね」

「…………え?」

 なにか誤解していないだろうか。
 ヴァレリオが勘違いしていそうだったので、フレイはすべてを話すことにした。

「えっと、そうじゃなくて……。真実がわかったので、隠す必要がなくなったんです」

「…………どういうこと?」

「僕、ヴァレリオ様が、レニー様を愛していると思っていたんです。だから、国外に出る決断をしたんです。ヴァレリオ様が、僕以外の人を伴侶として迎えるところも、誰かと愛し合うところも、見たくなかったから……」

「っ、そんなこと、するわけないだろう!? 私はフレイに夢中だっていうのに……」

「ふぁっ!」

 愛していると囁くヴァレリオに、たくさんキスをしてもらう。
 幸せいっぱいになるフレイは、真っ直ぐに立っていられず、ふらふらだった。


「ヴァレリオ様が、レニー様を寵愛しているって聞いただけで絶望していたのに。レニー様がヴァレリオ様の子を出産する際は、身体に負担がかかるから、その役目を健康な僕にさせるつもりだって聞いてしまって……。子どもを取られる前に逃げないと! って、僕もう必死だったんです」

「「「「「………………」」」」」


 だが、もう逃げる必要はないのだ。
 ヴァレリオの腕の中で、ひとりぬくぬくとしていたフレイは、周りの音がなくなったことに気付いた。


(あ、あれ……? なんだか、すごく寒い気がするのは僕だけかな……?)

 すんと表情が無くなったのは、ヴァレリオだけではなかった。
 フレイの話を聞いていた騎士たちもまた、目が据わっていた。
 それから彼らが、「懲役三百年じゃ、短すぎたな……」と話している声が聞こえた気がしたが、フレイの気のせいだろう。


「あっ、ジョナス様が待っていますよね? 早くお家に帰りましょう!」

「っ、ああ。そうだね、帰ろう」


 ヴァレリオに守られるフレイは、レイチェルとエミリオを連れ、グランディエ公爵家に帰ることになった。
















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