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27 離縁状

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 翌日、ヴァレリオはグランディエ公爵家に仕える者たちを集め、極秘の命を下していた。

「王命により、ザイル王国の者に引き渡すまで、レニー・ヘムズワースを監視することになった」

「「「…………」」」

 レニーが伴侶を殺害した疑いがかけられていると知っても、誰ひとりとして驚いてはいない。
 「あの悪魔から、フレイ様をお守りせねば……」と、皆がまず思ったのは、フレイのことだった。
 ヴァレリオが何も言わずとも、使用人たちは皆、フレイを身の安全を第一に考えている。

(さすがフレイ。……私などには、勿体無いくらいに素晴らしい人だ)

 皆に愛されているフレイを、ヴァレリオは誇りに思っていた。

「レニー・ヘムズワースは、亡き伴侶の遺産を持ち逃げした疑いもかかっているそうだ。よって奴が逃亡しないよう、ここにいる全員で監視態勢を取る」

「「「ハッ!」」」

「生きたまま引き渡す予定だが……。万が一にも、フレイに危害を加えようとした時は、

「「「っ、ハッ!!!!」」」

 国王陛下の勅命ちょくめいとは、少し違った内容だったが、使用人たちからは一段と大きな返事が返ってきた。
 以前までのヴァレリオならば、王命に逆らうようなことはしなかっただろう。
 だが、今のヴァレリオには、己の命よりも大切な人がいるのだ。





 そして表向き、レニーはジョナスの命の恩人として、グランディエ公爵邸に滞在することになった。
 過去の醜聞もあるため、レニーには外出することを禁じている。
 そして暇を持て余したレニーと、ヴァレリオや使用人たちが剣を交えることもあった。

 あわよくば、レニーが誰かに怪我をさせ、故意的なものだったとして、捕縛してやろうと考えていたのだが……。
 レニーの剣があまりにお粗末すぎたため、その計画は頓挫とんざした。

「ははっ、参った! 近衛騎士団の団長を引退しても、キミは強いんだね!」

「「「…………」」」

 レニーが剣を手にしていることで、使用人一同が警戒体制に入っている。
 しかし、それをどう勘違いしたのか、注目されていると思い込んでいるレニーが、乱れた金髪をかき上げた。

「でも、ボクたちも歳を取ったよね……。今のキミより、十二歳の頃のキミの方が強かったな」

「「「…………」」」

 そう言って爽やかな笑顔を見せるレニーだが、最悪の空気である。
 なにせ十二の頃のヴァレリオが強かったのは、母親を口説く不誠実な婚約者を殺そうとしたからだ。
 誰しもが、もうレニーとは関わりたくないと思っている時、「フレイ様っ!」と微かな声が聞こえた気がした。

(……フレイ?)

 それからフレイの専属侍従から、フレイが倒れたと聞くことになった。
 ここ最近のフレイの体調不良の原因は、間違いなくレニーのせいだろう。
 もし、ヴァレリオがフレイの立場だったなら、いくらフレイが元婚約者に気持ちがなくとも、穏やかにはいられないと思うからだ。

「フレイのためにも、あの男を本邸から追い出すべきだな」

「そうですね。では、離れの準備を――」

 フレイのためにと、すぐにダリウスが離れを使用できるように指示を出す。

「最初から、アレを離れに閉じ込めておけばよかったな……」

 そして、フレイの専属侍従にも、『離れには決して近付かないように』と、キツく言い聞かせた。
 それでもフレイは不安を抱えていたようで、ヴァレリオは毎晩フレイに愛を囁き、夜を共にした。
 ヴァレリオがそばにいれば、フレイは安心して眠れているようだった。
 


 夫夫の寝室に行き、寝台で横になる。
 フレイのいない部屋は、ひどく寒く感じた。

(……フレイに会いたい)

 結婚するまでは、ひとり寝をすることが当たり前だったヴァレリオだが、今では腕の中にフレイがいないと落ち着かなかった。

「――やはり、フレイに会いに行こう」



 一目でもフレイの顔を見たいと、ヴァレリオはラヴィーン伯爵家に馬を走らせたが、待っていたのは『離縁状』を持った、フレイの専属侍従だった。
















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