愛のない結婚だと知ってしまった僕は、

ぽんちゃん

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3 初夜はいつですか……?

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 一年間の婚約期間を終え、ついにフレイはヴァレリオと婚姻した。
 王族のような華々しい結婚式だった。
 フレイがヴァレリオに想いを寄せていたのは、友人の間では周知の事実。
 社交界でも知らない者はいないだろう。
 皆に祝福され、夢のような時間を過ごした。

(ただ、誓いのキスは、額だったけど……。でも、これからヴァレリオ様と、初夜……ッ!!)

 緊張がピークに達していたフレイだが、脳内はヴァレリオに愛される妄想でいっぱいだった。

 そしてフレイは、いつも通りに湯浴みを済ませ、夫夫の寝室に案内された。
 まだヴァレリオの姿はなく、落ち着かないフレイは、部屋を行ったり来たりして過ごす。
 だが、愛用の寝巻きを見て、はたと思う。

「そういえば、初夜って、特別な夜着が必要なんじゃないのかな? ……あれ? ちょっと待って。湯浴みも、いつも通りじゃなかった!?」

 大好きなヴァレリオに、可愛いと思われたい。
 もっともっと愛されたい、と願うフレイは、慌てて身だしなみを整えていた。


 しかし、いつまで経ってもヴァレリオは姿を現さなかった――。


「こんなに遅れるなんて、やっぱりおかしい。ヴァレリオ様に、なにかあったのかも……」

 時計を見れば、夜中の二時だ。
 心配になったフレイが寝室を出れば、警護を任された使用人が立っていた。

「奥様、どうかなさいましたか?」

「っ……いや、えっと……」

 奥様、と呼ばれたことに、ドキッとしてしまったフレイだが、深呼吸をして自分を落ち着かせる。
 そしてヴァレリオのことを聞いたが、「え?」と不思議そうな顔をされてしまった。

 その後、フレイの専属侍従のコニーが現れた。
 白銀の短髪に赤眼で、小動物のように愛らしいコニーは、フレイのためにヴァレリオが雇ってくれた使用人だ。
 歳も近く、いつもフレイの恋の相談に乗ってくれる聞き上手な青年である。

「フレイ様、何かありましたか?」

 夜遅いということもあり、フレイはコニーと共に一旦部屋に戻る。
 こんな夜中に起こされて、眠たいはずのコニーだが、そんな態度はおくびにも出さずに、あたたかな紅茶を用意してくれた。

「あ、あのねっ。ヴァレリオ様に、何かあったのかと心配になって……」

 ぱちぱちと、コニーが不思議そうに瞬きをする。
 またしても「お前は何を言っているんだ?」といった顔をされてしまい、フレイはひとり困惑していた。

「怖い夢でも見たのですか? 私でよければ、フレイ様が眠りにつくまで、おそばにいますよ」

 もちろん扉は開けておきます、と話したコニーに促され、フレイは寝台に横になった。
 コニーが子守唄を歌い始め、フレイの心臓付近を優しくトントンと撫でる。
 わけがわからないまま、フレイは天井を見上げていた。

(……どういうこと? 今日が初夜じゃないのかな?)

 結局、結婚式で気を張っていたのか、フレイはぐっすりと眠りについていた。



 ◇◇◇



 そして、翌朝。
 フレイは気落ちしたまま食堂に向かっていた。
 
(ヴァレリオ様に愛されるどころか、コニーに寝かしつけられてしまった……)

 しかし、食堂には当たり前のようにヴァレリオがいて、「おはよう、フレイ。いい朝だね」と、笑顔で挨拶をしてくれた。
 その爽やかな笑顔にノックアウトされたフレイは、どうして初夜を放置したのかを、聞きそびれてしまった……。

 日中はヴァレリオは当主の仕事をし、屋敷の管理を任されているフレイは、ジョナスや使用人たちと楽しい時間を過ごす。
 食事の時間には、ヴァレリオも必ず顔を出してくれ、婚約していた頃と変わらず、ヴァレリオはフレイを大切に扱ってくれた。

(やっぱり僕たちは、相思相愛だよね?)

 昨日は結婚式の挨拶等で、ヴァレリオは大忙しだったように思う。
 だから、疲れて寝てしまっただけかもしれない。

(きっと、今夜が本番なんだ)

 フレイは心の準備はできている。
 むしろ、早く愛し合いたい気持ちでいっぱいだ。
 そして夜を迎えたわけだが、またしてもヴァレリオは寝室には来なかった。

「ええっ、なんで……? どうしよう、初夜がいつなのかわからない……。恥ずかしいけど、ヴァレリオ様に聞いてみようか……」

 コニーの話によると、ヴァレリオの体調が悪いだとか、仕事が忙しいだとか、そういったことではないらしい。

(こっそりと用意した夜空色の薄い夜着の出番は、一体いつ来るのかな……?)

 居ても立っても居られなくなったフレイは、ガウンを羽織って、ヴァレリオの寝室に向かった。
 しかし、護衛担当に止められ、またしてもコニーを呼ばれてしまった。

 二日連続で、深夜に呼び出されたコニーに、怒られるかと思ったが。
 さすがにフレイの様子がおかしいと察したのか、今日は寝かしつけられずに、真剣に話を聞いてくれるようだった。

「フレイ様? 当主様に何か用事があるのなら、昼間の方がよろしいかと……」

「っ、ひ、昼間!? そんなの、真っ昼間からは無理だよっ! ハレンチだっ!」

 顔を真っ赤にして否定するフレイを、コニーはますます怪しげに見ている。
 このままではらちが明かない。
 そう察したフレイは、初夜について、思い切って聞いてみることにした。


「普通、初夜は、夜にするものなんじゃないの?」

「……………へっ!?!?!?」


 フレイの問いに、コニーが目を丸くする。
 『初夜』を知っていたのか、といった驚いたような反応だった。














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