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2 四十二歳の王子様

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 幼い頃から憧れていた人に求婚されたフレイは、幸せの絶頂にいた。

(絶対に手の届かない人だと思っていたのに……。ヴァレリオ様と両想いだったなんて、奇跡だっ!)

 由緒正しきグランディエ公爵邸の庭園にて。
 フレイは美しく咲き誇る花々より、隣に立つ男性の端正な横顔をうっとりと眺め続けていた。
 指通りの良さそうな髪と、ドキリとするような切れ長の瞳は、夜空のような藍色だ。
 目立つ色ではないかもしれないが、フレイは街中でもヴァレリオを見つけられる自信があった。

(目尻の小さなしわも愛おしい……)

 若い頃は、国一番のモテ男だったことも頷ける美貌の持ち主で有名だったヴァレリオは、四十を超えた今でも、色気を感じさせる美丈夫である。

 すらりとした細身に見えるが、鍛え上げられた肉体は、惚れ惚れしてしまうほど美しい。
 その彫刻のように美しい肉体を維持しているところも、尊敬に値する。

 
 四十二歳とは思えない、フレイの王子様だ。


「今日も、父上に会いに来てくれてありがとう。フレイに会った日は、父上も元気を分けてもらえると喜んでいるんだ。感謝してる」

「っ、い、いえ、僕は、なにも……」

 父親の話をする時は、特に優しい表情をするヴァレリオに、フレイの目は釘付けだ。
 十八を迎えたばかりのフレイとは、二回りも歳の差があるものの、ヴァレリオを密かに想い続けていたフレイにとっては些細なことだった。

「でも、無理はしないで。たまには息抜きしてもいいんだからね? 毎日は大変だろう?」

「っ……い、いいえ」

 ねぎらうように優しく頭を撫でられ、フレイは頬を染めた。
 現在、ヴァレリオの父――ジョナスは、持病が悪化して寝込んでいる。
 すっかり気弱になってしまったジョナスを元気付けるため、フレイは半年程前にヴァレリオと婚約してから、毎日顔を出していた。

(無理なんてしていませんっ! 大好きな人のお父様なんだから、僕はジョナス様のことも大好きに決まっていますっ! ……って言いたい~っ!)

 好きな人の前では緊張してしまい、フレイは想いの半分も伝えられない。
 だが、毎日欠かさずヴァレリオを訪ねているフレイの態度で、好意は充分すぎるくらいに伝わっているだろう。

(むしろ、うっとうしいと思われていないか、心配なくらいだっ)


 ヴァレリオは、フレイの両親の命を救ってくれた恩人であり、フレイの初恋の人でもあった。


 現在は引退しているが、ヴァレリオは近衛このえ騎士団の団長を務めていた。
 近衛騎士の主な任務は、王族の警護である。
 国の重要な局面でも活躍する近衛騎士は、騎士の中の精鋭だけで構成されており、その最上の騎士団のトップに二十年近く君臨したのが、ヴァレリオという男だった。

(言うなれば、レジェンドだ!)

 腕の立つ騎士として他国にも名をせており、ファンも多い。
 特に熱烈なファンが、ラヴィーン伯爵家である。
 社交界でも有名な話だが、ラヴィーン一家が馬車の事故に遭った際に、真っ先に駆けつけてくれたのがヴァレリオだった。
 当時フレイは、母親のお腹の中にいたので、フレイの命の恩人でもあるのだ。


 
「フレイに、プレゼントがあるんだ」

 日頃の感謝の気持ちを込めて、とフレイがヴァレリオから受け取ったのは、ピンクダイヤモンドのピアスだった。
 とても希少価値が高いものだと、一目見ただけで分かった。

「っ、うわぁ、可愛いっ!」

「フレイに似合いそうだな、と思って取り寄せたんだけど。気に入ってもらえたみたいでよかったよ」

 会う度に贈り物をしてくれるヴァレリオは、フレイを甘やかしすぎではないだろうか。
 そうは思うが、ヴァレリオからの贈り物が嬉しくてたまらないフレイは、ありがたく受け取った。

「ヴァレリオ様、ありがとうございますっ! つけてみてもいいですか?」

「ああ。……私がつけようか?」

「っ、」

 『是非是非、お願いします!』と心の中で叫ぶフレイが、こくこくと激しく頷けば、ヴァレリオはくすりと笑った。
 そっと触れられたフレイの耳たぶは、おそらく真っ赤に染まっているだろう。

(また桃色の可愛いアクセサリーが増えたっ! あとで磨かないとっ!)

 ヴァレリオが贈ってくれるアクセサリー類は、すべて桃色だ。
 おそらくヴァレリオは、フレイには桃色が似合うと思っているようだ。
 ただ、本音を言えば、フレイはヴァレリオの色である、夜空色のものも身に付けたかった。

「フレイには、感謝してもしきれないよ。こんなおじさんと婚約してくれてありがとう」

「っ、おじさんだなんてっ! そんなこと、一度も思ったことはありませんっ!」

 ヴァレリオがおかしなことを言うものだから、フレイは飛び跳ねるくらいに驚き、即座に否定した。
 フレイの両親より歳上だなんて思えないほど、ヴァレリオは若々しいのだ。
 ヴァレリオをおじさんと呼ぶ人は、この世に存在しないだろう。

「――……フレイは、本当にいい子だね」

「っ……は、うッ」

 しみじみとつぶやいたヴァレリオに、そっと包み込まれる。
 耳元で「大切にするよ……」と囁かれただけで、フレイは腰が砕けてしまった。























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