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その後
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しおりを挟む整理整頓された机の上に、六冊の分厚い本が置かれていた。
ごくりと唾を飲む僕は、どんな内容でも受け入れる覚悟でいる。
一冊手に取り、ぱらりと開く。
「っ…………ぼく?」
中を見れば、本ではなくて、新聞や雑誌の切り抜きが丁寧に貼られていた。
それも、僕が冒険者として活動していた一年半分すべての記事だ。
しかも、日記になっている。
さすがに内容は読んではマズイと思う。
でも、僕は止められなかった。
だって、僕のことが大好きだって気持ちで溢れていたから……。
──ノエルが活躍している姿が見たい。
──ノエルが幸せなら、私も幸せだ。
──今すぐノエルに会いたい。
でも……。
「もう、私のことなんて、忘れているかもしれない……っ」
仲間たちに囲まれて、笑顔の僕の写真の下には、僕を待つ間のユージーン様の苦悩の日々が綴られていた。
──笑顔でノエルを送り出したけど、本当はずっとそばにいたかった。
──どんどん強くなっていくノエルは、私なんかがいなくても、今日も元気に空を飛び回っている。
──ノエルのいない一日は、長くて仕方がない。
──もう二度とノエルに会えないかもしれない。
──本当は、ずっと愛していると伝えたかった。
ただ読んでいるだけなのに、切ない気持ちで胸がいっぱいになる僕は、涙が止まらなくなっていた。
「初めて出逢った日から、僕を好きだったの……? そんなの、聞いてない……っ」
えぐえぐと泣いている声が聞こえたのか、「開けて」と声が聞こえて来た。
分厚い日記を抱きしめる僕は、そろそろと扉に向かい、鍵を開ける。
「っ、ユージーンさまっ、ごめんなさいっ、ぼく……っ」
怒られると思ったけど、ユージーン様は「いいんだよ」と、悪いことをした僕を許してくれる。
その優しさが嬉しいのに、胸が痛い……。
そっと涙を拭ってくれたけど、僕の目からはぽろぽろと涙が零れ落ち続ける。
「ごめんね。きっと泣かせてしまうと思ったから、言えなかったんだ。それに、あの頃は情緒不安定だったから、自分でも恥ずかしいと思うようなことばかりを書いていたしね……」
ふるふると首を横に振る僕は、ユージーン様の胸に顔を埋める。
言葉が出てこない僕を優しく包み込んでくれるユージーン様は、僕を世界一貴重な宝物だと思ってくれているみたい……。
「一度は、消してしまおうと思ったんだ。でも、どんな気持ちだったとしても、毎日ノエルを想っていたことを、忘れたくなかった……」
ユージーン様の熱い気持ちに、胸がぎゅっと締め付けられる。
勝手に日記を読んで、最低な行為をしたけど、本心を聞けてすごく嬉しい……。
「ずっと想っていた人と恋人になれて、私は浮かれていたんだ……。大切にしたいと思っているのに、ノエルに触れると自分を止められなくなってしまう……。だから、昔の気持ちを思い出して──」
「止めなくても、いいですっ」
「……ノエル」
「僕だって、ユージーンさまが、大好き……っ。ずっと、ずーっと、一緒にいたい、ですっ」
想いが詰まった日記を抱える僕は、ユージーン様を強く抱きしめた。
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