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その後

131 サイモン

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 俺の恋人は、放っておけないタイプの人間だ。

 ノエルちゃんを陰で見守っていた時は、ぶっちゃけ、あんなのさっさと見捨てたらいいのに、って思っていたんだけど……。
 一緒に過ごしてみたら、愛嬌があって、かまってあげたくなる。
 ノエルちゃんが世話を焼いていた気持ちが、今は物凄くわかる。

 そんなわけで、俺は恋人の成長を見守っていた。





 広い空に、秋の静かな雲が浮かんでいる。
 初めてスーツを着た俺は、恋人のご両親に挨拶をするために、エドワードの実家に滞在していた──。


 エドワードと同棲を始めた頃から、なんでこんな簡単なことが出来ないんだろう? って思うことがけっこうあったんだが……。
 エドワードの実家で一週間お世話になってみて、その原因が判明した。


 エドワードの父であるエイダンさんは、頑固親父タイプ。
 仕事が最優先で、家のことはすべて妻のエミリアさんに任せている。
 そして几帳面なエミリアさんは、夫にも息子にもなにもさせない。
 完璧主義なところがあるのか、ルーティンが決まっていて、それを乱されるのを嫌がる。


 (そりゃあ、エドはなにもできないわけだ。)


 俺の両親は二人とも冒険者だったから、ちょっと特殊だが。
 どこの家庭も、こんな感じなのか?

 でもノエルちゃんと別れてからのエドワードは、エミリアさんとキッチンに立つことが多くなった。
 最初は包丁なんて持たせられないと、拒否していたエミリアさんだったが、今は息子に料理を教えることが楽しくて仕方がないらしい。

 ちなみに俺も手伝って、合格点をいただいた。


 そして意外にも、ノエルちゃんラブのエイダンさんが、俺を息子の恋人として歓迎してくれた。
 エドワードは、俺との交際を認めてもらえないなら、もう実家には帰らないだなんて話していたが、そんな心配は微塵も必要なかった。


 真面目なエドワードを、渋くした感じのエイダンさんにお酌をして、グイグイ酒を飲ませる俺は、たった一週間でかなり仲良くなれたと思う。

 ノエルちゃんほどの凄腕魔法使いではないが、俺は全力でエドワードを守ると宣言すると、赤ら顔のエイダンさんが、酒を飲む手を止める。


 「ノエルたんはね、なかなか産まれてこなくてね……。最終的に、私が取り上げたんだよ」
 「えっ、エイダンさんが……?」
 「ああ。当時はエミリアがエドの子守で大変だったし、フェルノはあたふたしているだけで使い物にならなかった。他に動ける人間がいなくてね。私が死ぬ気で取り上げたんだ。だから、本当の息子だと思ってる節があるな」


 ヒックとしゃっくりをして、酔っ払っているエイダンさん。
 単純にノエルちゃんが可愛いから好きだと思っていたけど、産まれる前から大切にしていたことを知った。
 息子の恋人でなくても、ノエルちゃんが幸せならそれでいいみたいだ。


 「君と付き合ってから、エドが生き生きしているんだよ。一人っ子で、なんでも好きにやらせていたから、我儘なところもあるが……よろしく頼む」


 エイダンさんが、ガンッと頭を机に打ち付けて、そのまま眠ってしまった。
 風魔法で体を浮かせて、寝室まで運ぶ俺。

 エドワードは父親とは仲が悪いと話していたが、めちゃくちゃ愛されているじゃないか……。

 寝台に寝かせて、『こちらこそよろしくお願いします』と頭を下げた俺は、エドワードの元へ行く。


 「サイモン! なにか言われたか?」
 「いや? エイダンさんが寝ちゃったから、ベッドに寝かせて来たよ」
 「……そうか」


 ほっとした顔をするエドワードは、両親に孫の顔を見せることができないから、交際を反対されると不安になっている。

 エイダンさんもエドワードも、互いのことを大切に想っているのに、それを口にすることのない二人は、すごく似ていると思った。


 でもさ……。
 すんごい可愛いお顔のノエルちゃんも、れっきとした男の子なんだよね?
 どちらにせよ、孫の顔は見せられないんだよ。
 エドワードの中では、ノエルちゃんは女の子の枠なのか……?


 そんなちょっとズレているエドワードも可愛いと思ってしまう俺は、かなり重症だと自覚することになった。
 







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