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その後
131 サイモン
しおりを挟む俺の恋人は、放っておけないタイプの人間だ。
ノエルちゃんを陰で見守っていた時は、ぶっちゃけ、あんなのさっさと見捨てたらいいのに、って思っていたんだけど……。
一緒に過ごしてみたら、愛嬌があって、かまってあげたくなる。
ノエルちゃんが世話を焼いていた気持ちが、今は物凄くわかる。
そんなわけで、俺は恋人の成長を見守っていた。
◆
広い空に、秋の静かな雲が浮かんでいる。
初めてスーツを着た俺は、恋人のご両親に挨拶をするために、エドワードの実家に滞在していた──。
エドワードと同棲を始めた頃から、なんでこんな簡単なことが出来ないんだろう? って思うことがけっこうあったんだが……。
エドワードの実家で一週間お世話になってみて、その原因が判明した。
エドワードの父であるエイダンさんは、頑固親父タイプ。
仕事が最優先で、家のことはすべて妻のエミリアさんに任せている。
そして几帳面なエミリアさんは、夫にも息子にもなにもさせない。
完璧主義なところがあるのか、ルーティンが決まっていて、それを乱されるのを嫌がる。
(そりゃあ、エドはなにもできないわけだ。)
俺の両親は二人とも冒険者だったから、ちょっと特殊だが。
どこの家庭も、こんな感じなのか?
でもノエルちゃんと別れてからのエドワードは、エミリアさんとキッチンに立つことが多くなった。
最初は包丁なんて持たせられないと、拒否していたエミリアさんだったが、今は息子に料理を教えることが楽しくて仕方がないらしい。
ちなみに俺も手伝って、合格点をいただいた。
そして意外にも、ノエルちゃんラブのエイダンさんが、俺を息子の恋人として歓迎してくれた。
エドワードは、俺との交際を認めてもらえないなら、もう実家には帰らないだなんて話していたが、そんな心配は微塵も必要なかった。
真面目なエドワードを、渋くした感じのエイダンさんにお酌をして、グイグイ酒を飲ませる俺は、たった一週間でかなり仲良くなれたと思う。
ノエルちゃんほどの凄腕魔法使いではないが、俺は全力でエドワードを守ると宣言すると、赤ら顔のエイダンさんが、酒を飲む手を止める。
「ノエルたんはね、なかなか産まれてこなくてね……。最終的に、私が取り上げたんだよ」
「えっ、エイダンさんが……?」
「ああ。当時はエミリアがエドの子守で大変だったし、フェルノはあたふたしているだけで使い物にならなかった。他に動ける人間がいなくてね。私が死ぬ気で取り上げたんだ。だから、本当の息子だと思ってる節があるな」
ヒックとしゃっくりをして、酔っ払っているエイダンさん。
単純にノエルちゃんが可愛いから好きだと思っていたけど、産まれる前から大切にしていたことを知った。
息子の恋人でなくても、ノエルちゃんが幸せならそれでいいみたいだ。
「君と付き合ってから、エドが生き生きしているんだよ。一人っ子で、なんでも好きにやらせていたから、我儘なところもあるが……よろしく頼む」
エイダンさんが、ガンッと頭を机に打ち付けて、そのまま眠ってしまった。
風魔法で体を浮かせて、寝室まで運ぶ俺。
エドワードは父親とは仲が悪いと話していたが、めちゃくちゃ愛されているじゃないか……。
寝台に寝かせて、『こちらこそよろしくお願いします』と頭を下げた俺は、エドワードの元へ行く。
「サイモン! なにか言われたか?」
「いや? エイダンさんが寝ちゃったから、ベッドに寝かせて来たよ」
「……そうか」
ほっとした顔をするエドワードは、両親に孫の顔を見せることができないから、交際を反対されると不安になっている。
エイダンさんもエドワードも、互いのことを大切に想っているのに、それを口にすることのない二人は、すごく似ていると思った。
でもさ……。
すんごい可愛いお顔のノエルちゃんも、れっきとした男の子なんだよね?
どちらにせよ、孫の顔は見せられないんだよ。
エドワードの中では、ノエルちゃんは女の子の枠なのか……?
そんなちょっとズレているエドワードも可愛いと思ってしまう俺は、かなり重症だと自覚することになった。
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