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その後
130 サイモン
しおりを挟む「おかえり。飯出来てるぞ」
帰宅と同時に出迎えてくれた俺の恋人が、にっと笑みをこぼす。
葡萄酒色のエプロンをつけているエドワードは、『三品も作ったぞ!』とドヤ顔だ。
キッチンが破茶滅茶になっているが、分担している家事を頑張ろうとするその姿を、俺は愛おしいと思っている。
俺の荷物を奪い取り、そこらへんにポイッと投げたエドワードに背を押されて、席に着く。
まだ飯を口にしていないっていうのに、「味はどうだ? なあ、うまいだろ?」と、旨い以外の返答を求めていない顔に笑ってしまう。
「う~ん。五十点」
「おい、嘘だろ……。そこは不味くても、旨いって言うところじゃないのか!? めちゃくちゃ頑張ったのに……」
不貞腐れるエドワードを抱き寄せた俺は、エプロンの隙間から手を差し込んで、脇腹を擽ってやる。
「だって服着てるから。そこは、裸エプロンでしょ~」
「っ、馬鹿か。誰がやるか!! 俺が聞いているのは、味の感想っ!!」
「いやいや、誰かさんが急かすから、俺まだ食べてませ~ん」
「っ……それなら、尻を撫で回していないで、早く飯を食えっ!!」
ぺちんと手を叩かれた俺は、わざとらしく両手を上げた。
偉そうに腕組みをして、早く食えと顎で指示を出すエドワード。
ハイハイと、てきとうに返事をする俺に、不満げな顔を晒している。
ノエルちゃんと恋仲だった時のエドワードとは、まるで別人だ。
恋人というより、仲の良い友人のような関係なのだが、それだけ互いに気を許しているってことだ。
……と、俺は思っている。
少し歪な形のオムレツには、卵の殻が入っていたが、「うまい」と笑顔で告げる俺。
青色の瞳をきらきらとさせる俺の恋人は、不器用なんだけど、そこがまた可愛いと思う。
「なに? そんなに見つめちゃって。あっ、膝の上に乗りたいの?」
「っ、なんでだよ……」
おかしいだろうと文句を垂れながらも、なんだかんだで俺の隣に座ったエドワード。
やっぱり、可愛い。
俺たちの住む邸は、住人がふたりしかいないのに、かなり広い。
今使用しているテーブルだって、十人用。
普段は向かい合って座っているが、エドワードが甘えたいと思っている時は、俺の隣に座ってくる。
大型魔獣の討伐もあって、俺と一週間離れただけで、寂しかったらしい。
素直に会いたかったって言えばいいのに、飯を口に運ぶ俺の横顔を、ちらちらと見ている。
……視線が痛いから。
「ご馳走様。すっごくおいしかった」
「ああ、あとは俺がやる」
空になった皿を手にすると、エドワードが片付けようとする。
俺が疲れているからと、食器洗いをしてくれるらしい。
「ありがと。でも、俺がやるから大丈夫。エドは座ってて」
確かに疲れてはいるが、飯を作ってもらったら、皿洗いを担当すると、ふたりで最初に決めたルールだ。
キッチンに行けば、泥棒でも入ったのか? って聞きたくなるくらい荒れているが……。
ノエルちゃんとのことで、自分の悪かったところを直そうと、エドワードは今も努力し続けている。
そういうところが、俺は好きだ。
「ごめんっ。やっぱり俺も手伝う……」
「ククッ、別にいいのに」
罰の悪い顔をするエドワードが俺を押し除けて、焦げ付いたフライパンを洗い始めた。
俺は両親が早くに亡くなっているから、自分のことは一通りなんでも出来る。
料理に関しても、作りながら片付けをしていくタイプだから、いつもエドワードは皿を洗うだけ。
だから、申し訳ないと思っているらしい。
「じゃあ、明日は俺が料理と片付け担当な?」
「いや、本当にいいって……」
「無理してない? 俺がいない間も、部屋の掃除とかしてくれてたんでしょ?」
背後からエドワードの肩に顔を乗っけると、「余裕だし」と即答する。
……が、絶対大変だったと思う。
「明日は家政婦さんを呼ぼうぜ?」
「……は?」
「たまには、ズルしたっていいだろ?」
俺の言葉に呆気に取られていたエドワードだったが、くつくつと笑い出す。
海のような青色の瞳は、俺のことが大好きだって訴えている。
……本当に可愛い。
ずっとお子ちゃまだと思っていた相手と、まさか恋仲になるなんて思っていなかった俺は、今では当たり前のようにエドワードの隣にいる。
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