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その後
125 ユージーン
しおりを挟む「ノエルお兄ちゃんがいないからって、そんなに泣かなくてもいいのにっ。すぐに帰ってくるよ?」
こてりと首を傾げたニコラスが、私の手を握り歩き出す。
シアさんに背を押される私は、なんとか足を動かして小さな家に戻った。
すぐにキッチンに向かったシアさんは、白銀の髪を背ろで一纏めにし、今日は自分が料理を作ると意気込んでいる。
「おふくろの味」だと言いながら……。
目元を手で隠す私は、必死に込み上げてくるものを堪えているのに、どうしてか感情を制御することが出来ない。
「こら、ニコラス。テオくんの膝の上に乗ろうとするんじゃない。その席は、ノエルの席だぞ?」
「ええ~。仕方ないからパパの膝でいっか」
「……なんだ、仕方がないって」
「だって、テオお兄ちゃんの方がいい匂いがするんだもんっ」
「パパの加齢臭で我慢しなさい」
「カレーシュー?」
ピンと来ていないニコラスが可愛らしくて、私はくつくつと喉を鳴らした。
泣きながら笑っていた私が顔を上げると、穏やかな色をした緋色の瞳と目が合う。
こほんと咳払いをしたフェルノさんが、自身の膝を叩いた。
「テオくんも、乗るかね?」
「っ……」
大真面目な顔で告げたフェルノさんは、私を自身の息子だと告げてくれている。
笑顔で気持ちだけ受け取った私は、新しい家族に囲まれて、夕飯の席を共にした。
宿屋で調理を担当しているため、シアさんも料理上手だ。
ノエルと似た味にほっこりとするが、私が好む食材ばかりが使用されていることに気付いた。
ノエルと恋仲になる前から、何度か食事を共にしたことはあったが、その時から私のことをよく見てくれていたことを知る……。
いい歳して、今日は何度泣けばいいのだろうな?
私を苦しめたあの女と、私を売った両親を、ずっと恨んでいた。
だがなにより、幼少期をやり直したい気持ちが強かった。
弟に寄り添い、もっと家族を大切にしていたなら、もしかしたら売られることはなかったのかもしれないと思っていたから……。
でも、あの女の養子にならなかったとしても、どこか金持ちのお嬢様の婿になっていたのだろうなと予想出来て、これでよかったんだと思えた。
愛するノエルと出逢えただけでも幸せだというのに、これ以上ない幸福感に胸がいっぱいになる。
「もうっ。テオちゃんったら、泣くほど美味しかったの? なんていい子なのかしらッ♡ ……って、コラッ!! どさくさに紛れて、テオちゃんのお皿にピーマンを入れないっ!!」
「バレたっ」
「…………ふふっ、どれも美味しいです」
ほうっと声を上げたシアさんは、私を自慢の息子だとにこにこと笑っていた。
いつも近所の人たちにも私のことを自慢しているらしく、羨ましがられるのだと得意げに話す。
その姿がノエルと重なり、私は愛情で溢れる家族を、生涯大切にしていこうと決意した。
「ただいまっ!」
カラン、カランとベルの音が鳴ったと同時に、ノエルに飛びつかれた私は、小さな体をなんなく受け止めた。
私の膝の上に乗り、小太りのおじさんが重くて、何度も落としてしまったと話すノエル。
「わざとじゃないよっ?」と付け加えたノエルの目が泳いでいて、皆が大笑いしている。
私の顔色を窺っているノエルは、元両親にお茶目な復讐をしてくれたようだ。
また感動が押し寄せて来ているのだが、ノエルは私に嫌われたと思っているのか、上目遣いで見つめられてしまう。
ご両親の前ではさすがに何も出来ないので、熱い視線を送り返しておく。
「お邪魔みたいだから、帰りましょうか♡」
「そうだな、また来るよ」
「……チッ。ふたりのチューが見たかったのに」
にんまりしているニコラスの顔を見ていられなくなったのか、ノエルが私の胸元に顔を隠す。
小さく笑った私は、私のために駆けつけてくれた三人に感謝の気持ちを伝えた。
用がなくても遊びに来るようにと言いつけられて、笑顔で了承した。
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