113 / 137
111
しおりを挟む一緒に活動していたみんなの応援する声を聞きながら、僕は全速力で実家に飛んでいた。
途中で僕を発見した人の「流れ星だ!」って声が聞こえた気がしたけど、手を振る余裕なんてない。
まさか、僕を待っている間にお店を営業していないだなんて夢にも思わなかった。
一人でも営業できるくらいの小さなお店だって話していたから、てっきりテオと共に、お客さんをおもてなししているとばかり思っていた。
のんびりと快適な隠居生活ですね! だなんて、ユージーン様と笑って話していた僕は、心底間抜けな男だった……。
この一年半。
ユージーン様がどんな想いで過ごしていたのかを想像しただけで、胸が張り裂けそうだ。
実家の宿屋の扉を蹴破る勢いで突入した僕を、食事をしていたお客さんたちがぽかんと口を開けて見ている。
そんなことはお構いなしに中に入ると、緋色の瞳を見開く父さんが、声を張り上げる。
「ノエルっ!」
「ユージーン様のお店はどこっ!? まだ営業していないって本当!?」
「ああ、今も誰かさんを待っているぞ?」
「っ、」
大慌てで帰ってきた僕を出迎えてくれた両親に、ユージーン様のお店の場所を確認した僕は、またしてもお礼を告げずに飛び立つ。
「がんばれ、ノエルお兄ちゃーんっ!!!!」
大きく手を振るニコラスの姿を視界の端で確認した僕は、半泣きでユージーン様の元に向かう。
だだっ広い土地に、ぽつんと小さなお店を発見して、すぐにユージーン様のお店だとわかった。
お店の裏には畑も見える。
僕がふざけて、畑を耕して欲しいと言ったことを覚えてくれていたのか、本気で美しすぎる農家になっていたみたいだ……。
嗚呼、ダメだ。
涙が込み上げてくるっ。
静かに店の前に降り立った僕は、ドキドキと高鳴る胸を押さえる。
ふうっと深呼吸をして、扉を開けた。
カラン、カラン、とベルの心地よい音が鳴る。
椅子に腰掛け、どこか寂しげに膝の上の子猫を撫でていた人が、僕を見つけて切れ長の目を見開いた。
ユージーン様の膝の上から飛び降りたテオが、僕に向かって駆け寄る。
立ち尽くす僕の足に、テオがすりすりと頬を寄せている。
なんて言おうか考えていなかった僕は、泣きそうになっているユージーン様の顔を見ただけで、うまく呼吸が出来なくなっていた。
すっと立ち上がったユージーン様が僕に近付き、現実なのかを確かめるように、僕の頬に触れる。
震えている手に頬を寄せた僕は、大好きな人の広い背に腕を回して、ぎゅうっと抱きついた。
「ユージーンさまっ」
「っ、ノエル……」
「ずっと、会いたかった、ですっ」
涙が止まらなくなった僕を、力強く抱き締めてくれたユージーン様は「私もだよ」と、すごく優しい声で囁いた。
ユージーン様の顔が見たいのに、嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちでぐちゃぐちゃになっている僕は、胸元から顔を上げることが出来ない。
ぐりぐりと甘えていると、ユージーン様が僕の顔を上げさせる。
熱のこもるエメラルドグリーンの瞳に見下ろされて、僕は震える唇を動かした。
「っ……め、面接にっ」
「合格」
「ッ」
即答したユージーン様が、僕の口を塞ぐ。
びっくりしてされるがままになる僕だけど、もう離れないとばかりに、ユージーン様にしがみついていた。
薄い唇から、はあっと色っぽい声が漏れて、僕の腰が砕ける。
完全に蕩けた顔をしてしまっている僕を、ユージーン様がしっかりと抱き留めてくれていた。
「我慢出来なくてごめんね……」と謝ったユージーン様に、僕はふるふると首を横に振る。
「ノエル……。愛してるよ」
想いのこもった低く魅力的な声に、全身に鳥肌が立った。
ぶるっと震えてしまったことが恥ずかしくて仕方がないのだけど、僕は熱を帯びた瞳を見上げる。
「っ、ぼくも……」
至極幸せそうに笑ったユージーン様が、胸がいっぱいになっている僕を、軽々と抱き上げる。
念願だった膝の上に乗せてもらう僕は、大好きな人に抱きついて、ごろごろと甘え続けていた。
90
お気に入りに追加
3,124
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
俺はすでに振られているから
いちみやりょう
BL
▲花吐き病の設定をお借りしている上に変えている部分もあります▲
「ごほっ、ごほっ、はぁ、はぁ」
「要、告白してみたら? 断られても玉砕したら諦められるかもしれないよ?」
会社の同期の杉田が心配そうに言ってきた。
俺の片思いと片思いの相手と病気を杉田だけが知っている。
以前会社で吐き気に耐えきれなくなって給湯室まで駆け込んで吐いた時に、心配で様子見にきてくれた杉田に花を吐くのを見られてしまったことがきっかけだった。ちなみに今も給湯室にいる。
「無理だ。断られても諦められなかった」
「え? 告白したの?」
「こほっ、ごほ、したよ。大学生の時にね」
「ダメだったんだ」
「悪いって言われたよ。でも俺は断られたのにもかかわらず諦めきれずに、こんな病気を発病してしまった」
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる