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しおりを挟む「二人が強い絆で結ばれているのなら、きっとユージーン様がどこへ行ったとしても、最後はヴァイオレット様の元に戻る日が来ますね?」
「ええ、そうよ」
即答したヴァイオレット様は、それはそれは嬉しそうに微笑んでいる。
その顔を見た僕が、異常だと思うくらいにユージーン様との運命を感じているみたいだ。
書類上は一番近くにいる存在だけど、運命の赤い糸では繋がっていないと思う。
でもそれを僕が指摘したところで、間違いなく彼女は否定する。
だから僕は、運命という都合の良い言葉を、利用させてもらうことにした。
「それなら、ユージーン様の最後の舞台を邪魔する必要はないし、僕を牽制する必要もない。だって最後は、ユージーン様は貴女の元に戻って来る。そういう運命ですから」
だから邪魔はしないでほしいと遠回しに告げると、ヴァイオレット様は微笑を浮かべたまま固まっている。
お人形のように綺麗な人なんだけど、目が笑っていないから、普通に怖い……。
沈黙が流れたけど、含み笑いをしたヴァイオレット様が、ゆったりと動き出した。
さすがに暴力を振るわれないとは思うけど、なにをするかわからないから、僕はいつでも氷の壁を発動できるように構える。
不敵に笑う黒髪の美女が、椅子に座ったままの僕に手を伸ばす。
指先が、僕の顎に触れそうになった瞬間──。
僕が魔法を発動させる前に、凄い勢いで扉が開いた。
「っ、ノエルッ!!」
息を切らすユージーン様が姿を現した。
ヴァイオレット様には目もくれず、一直線に僕に駆け寄ったユージーン様は、僕を守るように二人の間に入った。
僕の存在を確かめているかのように、強く抱きしめられる。
よかった、と心底ほっとしたような呟きが、思考が停止している僕の耳を擽る。
ぴたりと頬がくっつき、ユージーン様のドクドクと、速く鳴る心臓の音が聞こえて来る。
驚いたけど、大慌てで駆けつけてくれたことがわかった。
なにをされても平気だと思っていたけど、やっぱり内心ビビっていた僕は、嬉しい気持ちが爆発している。
……僕の心臓も、破裂寸前だ。
少し震えている両手で僕の頬が包み込まれて、「大丈夫? なにもされてない?」って、すごく近い距離で問いかけられる。
冷静になるように努めていたけど、ヴァイオレット様の話を聞いて混乱している僕は、美しい顔のドアップに耐えきれない。
「無理しちゃダメだろう……。こんなに震えて……っ」
僕がヴァイオレット様にいじめられたと思ったのか、ユージーン様はキャパオーバーになっている僕をきつく抱き締める。
「っ……ユージーンさまっ」
「もう大丈夫だからね、ノエル……。私がけりをつけるから」
そう言って、すっと立ち上がったユージーン様は殺気立っていた。
僕も慌てて立ち上がり、ユージーン様の腕にしがみつく。
「っ、大丈夫です! お母様は、ユージーン様を見守ってくれるみたいです!」
「…………」
「広い世界へ飛び立とうとするユージーン様を、送り出してくれるそうです。でも、最後は会いに来てほしいと……。そういう運命だから」
僕たちの顔を交互に見たユージーン様は、僕に向かって笑いかけた。
「ああ、そうか……。これでも、育ててもらった恩を忘れてはいないんだ」
「っ……ユージーンっ」
ぱあっと顔を綻ばせたヴァイオレット様は、僕といた時とは別人のように頬を紅潮させている。
いつもこの表情を向けられていたユージーン様は、彼女の気持ちに気付いていたのかもしれない。
……そう思うと、なんだかゾッとした。
「だから、最期は必ず会いに行きます。お母様」
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