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 凄みのある声を出すエイダンさんと、エドワードのお母さん──エミリアさんにじっと睨まれているエドワードは、渋々口を閉ざした。

 でも、意を決した顔で見つめられる。


 「さ、三週間後に……っ」
 「三十年後にしろ」


 エイダンさんがピシャリと言い放つ。

 今度こそ黙ったエドワードに、縋るような視線を向けられたのだけど、僕は今は舞台に集中してほしいとだけ話した。

 空気を読んだみんなは、「あ、明日も頑張ろうぜっ!」と声をかけて、解散していた。



 エイダンさんとエミリアさんは、僕たちの夢を反対して絶縁状態になったことを心から悔いていた。
 連絡を取れば、夢を諦めてのこのこと帰ってくるかもしれない。
 一度決めたことは、最後までやり遂げろと思っていたそうだ。
 僕の両親も同じことを思っていたようで、本当は最初から僕たちを応援していたらしい。
 僕も両親に連絡を取らなかった、というより取れなかったことを謝罪して、謝罪合戦となっていた。

 最終的には、僕が「夢が叶って嬉しい!」と、とびっきりの笑顔を見せて、その場を収めることになんとか成功した。
 
 せっかく主役になった舞台初日に、ご両親に激怒されるエドワードを少しだけ可哀想にも思ったけど、最終日までは全力で駆け抜けてほしいと願う。


 「あれ、ニコは?」


 僕にずっとくっついていた弟の姿がなくて、辺りを見回すと、衝撃の光景が目に飛び込んで来る。
 椅子に座って休んでいるユージーン様の足の上にちょこんと乗るニコラスが、満面の笑みでお喋りを楽しんでいた。

 ユージーン様によしよしと頭を撫でられて、嬉しそうに抱きつくニコラスの姿を見た僕は、どうしてかモヤッとする。
 

 「ノエルお兄ちゃんとジーンは、お友達だったんだ! 教えてくれたらよかったのにぃ~」


 ぷくっと頬を膨らますニコラスに、ごめんねと優しく謝るユージーン様。
 さすがに膝の上に乗るなんてことはできないけど、僕は素直に甘えられるニコラスを、すごく羨ましいと思っていた。


 ユージーン様が僕に優しくしてくれるのは、きっと弟のように思っているからなんだろうな……。
 最初からわかっていたはずなのに、僕はどうしてこんなに落胆しているんだろう。


 エメラルドグリーンの瞳がぼんやりとする僕を見つめて、ちょっぴり驚いたような表情に変わる。
 僕の両親もユージーン様に挨拶に行くけど、僕は背を向けていた。

 ユージーン様が、僕のためにいろいろと動いてくれていたことは、なんとなく察している。
 感謝の言葉を伝えたいのに、今はどうしてもそんな気分にはなれなかった。
 早足で控室を出て、指を鳴らそうとした僕の手は、いつのまにか大きな手に強く握られていた。


 「ノエル、さっきはありがとう。助かったよ」
 「…………勝手なことをしてすみませんでした」
 「なにか……、怒ってる?」


 そう言って僕の顔を覗き込んだユージーン様は、なんだか弱ったような顔をしていた。


 「あの女に連れられていた人を、本当の弟だと思ったんだ……。あの子は、両親に愛想を尽かして国を出たはずだから、ここにいるわけなんてないのに……。情けなくも、取り乱してしまったよ」


 僕にだけ聞こえるくらいの声量で話したユージーン様は、そっと僕の手を離した。


 「僕を見て、笑っていました……」
 「っ、大丈夫だよ。ノエルのことは、私が必ず守るからね。それでも……私のことに巻き込んでしまって、本当に申し訳ないと思っている」


 苦しそうに呟いたユージーン様が、目を伏せる。
 そんな辛そうな顔が見たいわけじゃない。
 そう思った僕が名前を呼ぶと、悲しげに揺れるエメラルドグリーンの瞳が僕を映す。


 「僕は受けて立つと、笑い返してやりました」


 魅力的な悪役を演じた人の真似をして、口の端を持ち上げる僕を見たユージーン様は、息を呑んだ。








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