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しおりを挟む「とても礼儀正しい人だったよ」
骨付き肉に夢中になっていた父さんが、僕を見つめて微笑む。
「そっか……。父さんが認めた人なら、大丈夫そうだね?」
「ああ、私の話も熱心に聞いていたし、真面目な青年だったな。でも、どこかで見たことがあるような……」
「そうなの?」
「一度、うちの宿屋に泊まったことがあるんですって! その時の店員さんの対応が良くて、すっかり気に入ってくれたみたいなのっ! きっと私のことよっ!」
ふふんと得意げな顔をした母さんは、ようやく料理を食べ始めた。
指先でトントンと、僕の膝を優しく突いたニコラスが、僕に耳打ちをする。
「内緒だけど、たぶんママじゃないよ。だって、すごく可愛い子だったって言ってたもんっ。きっとノエルお兄ちゃんのことだと思う」
「ふふっ、そうなんだ。じゃあ、僕たち二人だけの秘密にしておこう」
こっそりと笑い合う僕たちは、指切りをする。
僕も会ってみたいなあと呟けば、ニコラスが「僕が紹介するよ!」と話してくれた。
「近所のおばさまたちが、腰を抜かしちゃうくらいかっこいいんだ!」
「えっ、そんなに?」
「うんっ。エドワードよりかっこいいと思う」
「っ…………そっか」
不意にエドワードの名前を聞いた僕は、一瞬、胸がドキリとした。
僕は、エドワードと夢を追うために、四年前に田舎を捨てて出て行った。
夢を叶えて、必ず幸せになると豪語していたんだ。
それなのに……。
みんなは、僕とエドワードが別れたことを知らない。
いつかは打ち明けなければならないのだけど、僕は食事が喉を通らなくなってしまった。
そんな僕に気付いたのか、顔を見合わせた両親が頷き、父さんが口を開いた。
「いつも一緒にいたエドがここにいないということは、そういうことなんだろう?」
「っ、」
「二人が友人に戻ったとしても、私たちはノエルを責めたりしないぞ? ノエルが元気でいてくれたのなら、それでいいんだ」
「っ……ごめんなさいっ」
目頭が熱くなる僕は顔を上げることができない。
謝ることじゃないと、二人が交互に僕の頭を撫でてくれる。
まだ子供だけど、ニコラスも察してくれたのか、俯く僕に黙って寄り添ってくれた。
申し訳ない気持ちでいっぱいになる僕は、拳を握りしめて必死に涙を堪えていた。
エドワードの両親も、息子の晴れ舞台を観に来る予定だそうだ。
ただ、エドワードの父親は役場で働いているから、まとまった休みが取れなくて、王都へ来るのはまだ先なんだそう。
だから僕は、家族に王都を案内した。
僕が知っているお店は、全部ユージーン様とお出かけした場所。
療養期間がなければ、僕は家族に王都を案内することができなかったと思う。
ユージーン様には、感謝してもしきれない。
そしてみんなを宿屋へ送り届けることとなり、偶然にも僕が働いていた宿屋だったことが判明した。
しかも、従業員が総入れ替えになっていて、モジャモジャ頭の人が僕の代わりに雑用をしていた。
その人が、僕たちの付き添いで来ていたイグニスさんを見た瞬間、すごい勢いで逃げて行った。
イグニスさんは見た目は怖いけど、気遣いができる優しい人なのに……。
とっても感じの悪い人だと思った。
新たな店主になった若い男性が何度も謝罪してくれたけど、僕は帰り道もずっとムカムカしていた。
僕より嫌な思いをしたはずのイグニスさんはというと、なぜかデレっとした顔で僕に熱い視線を向けていた。
……火魔法の使い手は、視線も熱いみたいだ。
そんなこんなで、家族とお出かけをする充実した日々を送っていた僕の元に、一通の手紙が届いた。
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