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しおりを挟む僕に抱きついて離れないニコラスの後ろには、波打つ白銀の髪が綺麗な僕の母さんがいた。
四年経っても若々しいままの母さんが、僕を見てぽろぽろと泣き始める。
そんな母さんの隣には、キリッとした顔立ちの父さんが立っている。
滅多に泣かない父さんが、緋色の瞳を潤ませているのを見た瞬間、僕は涙が止まらなくなっていた。
「っ……どうし、てっ?」
「ノエルっ、会いたかったわ!」
「また魔法の腕を上げたな」
絶縁したはずの両親が、抱き合っていた僕と弟を包み込む。
まさかギルドで再会するとは思わなかったけど、僕はずっと会いたいと思っていた大好きな家族と、熱い抱擁を交わしていた。
講習会の途中だったのだけど、三人は僕が魔法を教えているところを見たいと熱望し、僕はそのまま講習会を続けることになった。
僕と手を繋ぐニコラスは、僕と同じ桃色の髪だけど、父親に似て直毛だ。
「体の力を抜いて……。そうそう、ニコ。上手だよっ」
「わーい! 僕、飛んでるぅー!」
僕の真似をして、地面から足が浮き始めたニコラスは、魔法の才能があるみたいだ。
火と水魔法も使えるし、十二歳ですでに宿屋でもお手伝いをしているんだって。
素直でとってもいい子に成長していて、僕は感激している。
そんな僕の背後では、あっさりとコツを掴んだニコラスに、冒険者たちが驚愕していた。
「っ、なんだあの家族っ。少し教えただけで、普通に飛んでるぞっ!」
「姫が、田舎の人は大半が生活魔法を使えると話していたが、本当だったんだなぁ~。って、レベルが違うだろ!!」
「…………恐ろしい町だな」
顔を見合わせた人たちが、ごくりと唾を飲んだ。
そんな中、クラウドさんだけは『俺たちと冒険を始めましょう!』って、爽やかな笑みで僕の両親を勧誘していた。
ギルド長は、怪我が原因で冒険者は引退しているけど、まだ三十手前だし、今でも戦えると思う。
器が大きいし、みんなから慕われているんだ。
それに加えて、容姿もワイルド系でかっこいい。
クラウドさんに見つめられて、垂れ目をさらにとろんと下げて見惚れている、僕の母さん──シアは、すぐにでも冒険者になってしまいそうだ。
そんな惚れっぽい母さんの肩を抱く僕の父さん──フェルノは、微笑んでいるけど、瞳にメラメラと炎を燃やしていた。
普段は優しい父さんだけど、愛する母さんのことになると、ガラリと別人になる。
お願いだから喧嘩だけはやめてほしい。
しかも、僕の母さんを巡ってだなんて……。
ちょっと困る。
案の定、父さんが断固反対して、母さんが冒険者になる道は閉ざされた。
無事に講習会を終えた僕は、現在ギルドにある食堂で、家族水入らずで食事をしている。
エドワードの舞台に招待されたらしく、ついでに観光に来たみたいだ。
僕の家はそこまで裕福じゃないのだけど、王都に二週間も滞在する予定らしい。
お金の心配をしていたのだけど、隣町に新しくお店が出来るみたいで、そこのオーナーの知り合いが経営している宿屋に、タダで宿泊させてもらっているそうだ。
なんて親切な人なんだ。
今度紹介してもらった時は、僕もお礼を伝えたいと思う。
「初めてお店を経営するみたいでね? いろいろ教えてほしいって訪ねてきたんだけどっ。そのオーナーさんがもうねぇ~。すっごく優しくて、色っぽくて、かっこいいのっ!!」
「そうなんだ」
「それにねっ。ついでだからって、うちの宿屋のボロくなった設備も新しくしてくれたのよ? 信じられる? 顔も心も綺麗なのっ!!」
食事をそっちのけで語る母さんは、恋する乙女のように瞳を輝かせている。
なんだかあまりにも親切すぎて、心配になった僕は、隣で黙々と食事を口に運ぶ父さんに言った。
「……母さん、騙されていないよね?」
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