尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

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 「やっぱりノエル君は、魅力的な子だね」


 騒然としている会場内で、唯一心を決めた表情で拳を握りしめているユージーンの隣に立つ私は、ノエル君に感謝していた。


 情けないことに、私の力ではどうすることもできない事態が起こっている。
 ノエル君には静観して欲しいとお願いしたが、きっと騒ぎを起こしてくれるだろうと思っていた。
 なにせ彼は、エドワードのことも、ユージーンのことも、同じくらい大切に想っているのだから。


 パーティーを続けられる空気ではなく、お開きとなったが、後援者たちは話題が尽きないようで、興奮冷めやらぬまま会場を後にする。


 ユージーンの最後の舞台は、間違いなく満員御礼となることだろう。


 唯一、呆然とその場に膝をついているエドワードは、ノエル君に別れを告げられたことを受け止められていないようだった。
 

 「冒険者ってなんだよっ。氷魔法は、宿屋の新作メニューにしたいって言ってたのに……っ。魔獣を殲滅? ありえないっ。いつからだ?」
 「……エド」
 「俺は、ノエルのことを一番に考えて動いていたんだ。全部、全部、ノエルのためにっ──」
 「いつまでそうやっているつもりだ? ノエルちゃんのためだって言いながら、結局は全部自分のためだろう」


 喚くエドワードは、劇団員から同情の視線を浴びていた。
 だが、親友のレオンだけは、呆れたように声を掛ける。


 「なんで優しいノエルちゃんが、みんなの前で別れを告げたのか……。さすがにわかってるよな?」
 「っ、」
 「正しい道を選択しろ、エド。ノエルちゃんが、もう戻って来なかったとしても」
 「っ、嫌だ……ノエルがいないとっ。ノエルに謝るっ。全部演技だって話せば、ノエルならきっと許して──っ」
 「いい加減にしろよ!!」


 エドワードの胸ぐらを掴んだレオンは、無理やり視線を合わせた。


 「ユージーンさんの噂も、お前が流したわけじゃないことはわかってる。でも、ノエルちゃんの気持ちはどうなるんだ? ノエルちゃんは、ユージーンさんのことを恩人だって言ってただろ?」
 「っ、ノエルは優しいから、そう言わざるを得なかっただけだっ!!」
 「それでユージーンさんに復讐しようとでも思ったのか?」
 「っ、だってノエルは、職場で辛い思いをっ」
 「ハァ。ノエルちゃんがそう言ったのか? 復讐してほしいって言ったのか?」
 「……言ってない。でも、俺にはわかる。きっと──」
 「ノエルちゃんの気持ちを決めつけるな!!」


 レオンに本気で怒鳴られたエドワードは、言葉を失っていた。
 皆も、ようやく事態が飲み込めたようだった。
 これで、ユージーンの噂が払拭された。


 「根回しするのは悪いことじゃない。むしろ、利用できるものは利用すべきだと思う。でも……ノエルちゃんは、そんなことは望んでいないと思う」
 「…………」
 「お前は、ユージーンさんの噂は誤解だと言ってほしいと頼むノエルちゃんを無視しただろ。その行動の、どこがノエルちゃんのためなんだ?」
 「っ、」
 「大勢の後援者を味方につけて、ユージーンさんを孤立させて、余裕をぶっこいているお前を間近で見ていたノエルちゃんは、きっと愛想を尽かしたと思う」
 「──ッ、ちがっ、違うんだっ! 俺は、本当にノエルのために……っ」


 でも……、と告げたレオンは、翡翠色の瞳に涙を溜めていた。
 言い訳し続けていたエドワードが、言葉を失う。


 「恋人に戻れなかったとしても、幼馴染には戻れるはずだ」
 「っ、……くっ、……っ……」


 泣き崩れるエドワードには、立ち上がってもらわなければならない。
 そのことは、いつにも増して冷静なレオンだけはわかっているようだった。











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