79 / 137
78
しおりを挟むエドワードが僕の悪口を言いながら、後援者の男の子と笑い合っている。
──虫唾が走る。
演技だったとしても、言っていいことと悪いことがある。
劇団の人たちからすると、仲の良い僕たちを揶揄う言葉かもしれないけど、今はまだ恋人であるエドワードが言っていい言葉じゃない。
ユージーン様の話を聞いた後だったからか、怒りの感情をどうにも抑えられない。
ガタガタと震える僕の全身からは、たぶん湯気が出ている。
ふうっと深く息を吐くけど、僕の魔力が暴走しているのか、パーティー会場が揺れだした。
「きゃあっ!! なに、地震っ!?」
小さな揺れなのに、大袈裟に怯える後援者の美青年が、エドワードに飛びつく。
そんな彼を、守るように抱きしめたエドワード。
状況を把握しようとしているのか、周囲を見回した青色の瞳が、僕を発見して止まった。
激しく揺れている青色の瞳を、僕は無表情で眺めていた。
そんな僕に恐怖を抱いたのか、エドワードは「ち、違うんだっ!」とか、なんとか、言い訳をしようとしている。
あまりに必死だから、怒っていたのが馬鹿らしくなった僕は、おかげさまで体の力が抜けていた。
揺れは収まったけど、エドワードが叫ぶように言い訳をしている声が響いた。
なんだなんだと、僕たちの周りに参加者が集まって来る。
恋人の前で、後援者を抱き締めているエドワードを、みんなが驚愕した顔で見つめている。
雷にでも打たれたんじゃないか? って表情だ。
そしてその視線が、ゆっくりと僕に集まり、みんなが息を呑んだ。
いつもへらへらしている僕が、今は笑みを消しているからだと思う。
魔法も使っていないのに、会場内は氷点下。
ピリピリとした空気が流れている……。
「あっ、あの子……! 『殲滅姫』じゃないっ!? こんなところで会えるだなんてっ!」
明らかに場違いの声が、響く。
瞳をキラキラとさせている見知らぬ人たちが、興奮したように僕を指差していた。
その声に反応したエドワードは、壊れたおもちゃのようにぎこちない動きで視線を向けた。
「殲滅姫……?」
「あら、あなた知らないの? 有名な冒険者じゃないのっ!!」
「凶暴な魔獣もあっという間に凍らせて、一匹残らず始末するのよ? だから殲滅姫っ!」
「こんなに近くにいるのに、殲滅姫を知らない人がいたのね?! 田舎者の私たちですら知ってるわよっ!!」
「桃色の髪だって聞いていたけど、本物の殲滅姫は、男の子だったんだ……。しかも可愛いっ♡」
「もお~!! あの人ったら、知ってたくせに内緒にしていたのね?」
なにやら盛り上がっている集団を、エドワードが驚いた顔で見ている。
「なんだよ、それっ。なあ、どういうことだ? 蟻も殺せないノエルが、冒険者だなんて……っ。そんなこと、ありえないよな?!」
そうだと言ってくれと言わんばかりに、なぜか怒りの感情をあらわにしているエドワードは、小さく笑みをこぼす美青年を抱きしめ続けていた。
ずっと王子様だと思っていたその端正な顔は、今では憎い悪役にしか見えなかった。
そして僕は、腹が捩れるくらい笑っていた。
「あははははっ、ああ~、おもしろい」
「っ……ノエルっ」
「もう、子離れする時が来たんだね」
笑いすぎて泣いていた僕は、大好きだった恋人に別れの言葉を告げていた。
絶句するエドワードに、僕は笑いかける。
「僕の一番大切な息子だったけど……。もう、僕がいなくても平気みたいで安心したよ」
稽古が辛い、人間関係が大変だと愚痴をこぼす恋人を励まし、慰め続けてきた僕の口から吐き出された言葉は、嫌味ったらしいものだった。
66
お気に入りに追加
3,124
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
俺はすでに振られているから
いちみやりょう
BL
▲花吐き病の設定をお借りしている上に変えている部分もあります▲
「ごほっ、ごほっ、はぁ、はぁ」
「要、告白してみたら? 断られても玉砕したら諦められるかもしれないよ?」
会社の同期の杉田が心配そうに言ってきた。
俺の片思いと片思いの相手と病気を杉田だけが知っている。
以前会社で吐き気に耐えきれなくなって給湯室まで駆け込んで吐いた時に、心配で様子見にきてくれた杉田に花を吐くのを見られてしまったことがきっかけだった。ちなみに今も給湯室にいる。
「無理だ。断られても諦められなかった」
「え? 告白したの?」
「こほっ、ごほ、したよ。大学生の時にね」
「ダメだったんだ」
「悪いって言われたよ。でも俺は断られたのにもかかわらず諦めきれずに、こんな病気を発病してしまった」
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる