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しおりを挟むドクドクと勝手に鳴っている心音が、やけにうるさい……。
カーター様からは、出来れば見守ってほしいとお願いされた。
もしかしたら、僕がエドワードと喧嘩をすると、心配しているのかもしれない。
だから僕は了承した。
本当なら、エドワードに一言言ってやりたい。
全て知っていたエドワードの浮かれていた顔を思い出すだけで、腹が立って来る。
僕に内緒で後援者の人たちを利用して、劇団の仲間たちに根回しをしていたのなら……。
魔法で大量の水を頭からぶっかけて、目を覚まさせてあげないといけない。
でも正直なところ、あのエドワードが一人で出来るようなことじゃない。
つまり、後援者であるヴァイオレット様に従っているんだと思う。
なにがなんでも主役になりたい気持ちなのは、痛いくらいにわかる。
ユージーン様を蹴落とさないと、エドワードは主役になれないと思っているんだと思う。
だから僕がどんなに頼んでも、ユージーン様の悪意のある噂を無視したんだ。
そして僕に知られたくないから、パーティー会場に連れ回して、僕の行動を制限していたのだろう。
でもその愚かな行動のおかげで、僕は先輩たちから話を盗み聞きすることができたから、感謝すべきかもしれない。
カーター様には黙っていると約束したけど、僕が真実を知ったことは、先輩たちが既にエドワードに話しているだろう。
エドワードが僕にどんな対応をしてくるのかを、僕は見定めたいと思う。
もし、ヴァイオレット様の思惑にも気付かずに振り回されているのなら、教えるべきかもしれない。
でも気付いていながら、あの浮かれた顔をしていたのなら、僕はもうエドワードの隣にいることはできない。
正々堂々と、演技で勝負をして欲しい。
だって今後は、エドワードが主役になることは確定しているみたいなのだから、わざわざユージーン様の最後の舞台で主役にならなくてもいいと思う。
そう思うのは、僕だけなのかな……?
部外者の僕にも親切に話してくれたカーター様にお礼を告げて、僕は部屋を出た。
なるべく表情には出さないように心がけて、エドワードに会いに行こう。
そう思ってだだっ広い廊下を歩く。
パーティー会場に戻ると、隅っこで親密そうにくっついている二人の姿を見つけた。
「ねぇ、エディー。僕も協力したんだから、少しは見返りをくれてもいいんじゃない?」
ぺろりと唇を舐めた美青年が、エドワードを誘惑するように上目遣いで見つめている。
以前までなら発作を起こしていた僕だけど、どうしてか今は自分でもびっくりするくらいに冷静だ。
「俺もしたいのは山々なんだけど。ヴァイオレット様に怒られるぞ?」
「ん、もうっ。本当は、あのピンク頭の子が好きだからでしょ~? 噂になってるの、僕、知ってるんだからね?」
「ハァ、何回言えば信じてくれるんだ? ノエルは幼馴染みだって言ってるだろ?」
エドワードに金髪をわしゃわしゃと撫でられた美青年は、誤魔化されないぞって顔に書いてある。
「この前は、お母さんって言ってなかった?」
「ん? ああ……。まあ、最近のノエルは変わったからな? 昔はいい子だったんだけど、今は怒ってばかりだし。母親みたいな存在だな?」
そう言って苦笑いを浮かべたエドワードは、明らかに好意を寄せてきている相手のご機嫌取りをしていた。
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