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 レオンさんに家まで送ってもらった僕は、差し入れの準備をする気分じゃなくて、そのまま湯浴みに向かった。
 今日のことは忘れようとすぐに寝台にダイブしたのだけど、なかなか眠気がやって来ない。

 日付が変わった頃にエドワードが帰宅し、目を閉じている僕の隣に潜り込んだ。
 甘ったるい香水の匂いに鼻が曲がりそうになる。


 「ノエル、ただいま」
 「…………やめて」


 頬に柔らかな感触がして、僕はたまらず声を出していた。
 視線だけを向ければ、エドワードは整った眉を下げている。

 まるで、我儘な恋人に困り果てているような顔。

 ……なんでそんな顔をされないといけないのだろう。


 「怒ってるのか?」
 「……まずは湯浴みをしてきたら?」
 「ああ。でも、今日は疲れたから、ノエルの顔を見て癒やされたくて」

 
 なんだかやり切ったような顔をしているエドワードは、僕の気持ちなんてお構いなしに抱きついてくる。
 湯浴みをしてきて欲しいのに、エドワードが動く気配はない。

 ……どんな匂いも消してしまう、強力な魔法を習得すべきかもしれない。
 
 新しい魔法を生み出そうと、僕が真剣に考えていると、エドワードはくつくつと笑い出した。


 「嫉妬してくれてるのか? ……嬉しいっ。ノエルが嫉妬するなんて、初めてだな?」
 「…………」
 「でも、心配する必要はないから。俺は浮気をするような男じゃ──」
 「僕……もう、パーティーには行きたくない」


 浮かれているエドワードの言葉を遮るように言えば、急に肩を掴まれた。
 ついさっきまで笑っていたエドワードは、今は笑みを消している。


 「それはダメだ」
 「どうして?」
 「っ、だって、その時間……ノエルはどうするんだ? 家にいてくれるのか?」


 頷いた僕をじっと見ているエドワードは、やっぱりダメだと、僕の行動を制限したがっている。
 青色の瞳は激しく揺れているし、なにかを隠している時の顔だ。
 

 「僕、本当にもう行きたくない……。僕は、みんなが思うような理解のある子じゃないっ」
 「っ、ノエル。俺が主役になるまでの期間だけでいい。俺の目の届くところにノエルがいてくれないと、心配でたまらないんだ……。頼む」


 必死に懇願するエドワードは、僕の気のせいかもしれないけど、いつもと様子が違う気がする。
 普段のエドワードなら、すでに泣いている。
 でも今は、僕が頷くまでそばを離れようとはしない。

 昔みたいにお互いのことを想ってすれ違うのではなく、本音で語り合いたい。
 いつもなら引くところだけど、僕の気持ちをわかってもらいたくて、言葉を吐き出した。


 「エディーは、同じことをされたらどう思う? 僕も、他の人と腕を絡めて楽しそうにお喋りしてても、なんとも思わない?」
 「っ……」


 くしゃりと顔を歪めたエドワード。
 でも結局エドワードが譲ることはなく、僕は今後もパーティーに参加しなければならないみたいだ。

 湯浴みをしてくると、逃げるように寝台から離れたエドワード。
 心のモヤモヤが消えない僕は、咎めるような口調で話していた。


 「僕の嫌がることはしないって、約束したのに……」


 僕の声が届いていたはずなのに、エドワードはなにも言わずに寝室を後にした。









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