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68 アルバート
しおりを挟む「ノエルちゃん、本当にごめんなさい……」
稽古場で三ヶ月ぶりに会ったノエルちゃんを別室に呼び出し、真っ青な顔で土下座をしているレオンは、想い人に嫌われる覚悟で真実を話していた。
エドワードからの土産を、自分からの土産だと思わせて渡していた件について。
レオンは、ノエルちゃんが傷付かないように送り主を黙っていたのだけど、実際は多忙なエドワードが後援者に頼んで、代わりに購入してもらっていただけだった。
エドワードは、最初からノエルちゃんのために用意していたんだ。
「レオンさんっ、やめてください!」
「いや、俺が悪かったんだ……。勘違いしていたとはいえ、二人の仲を拗らせるようなことをしてっ、どうやって償ったらいいのか……っ」
ノエルちゃんが療養することになったのは、自分の責任でもあると、この三ヶ月ずっと悩み続けていたレオンは、謝罪の言葉を繰り返した。
一向に頭をあげないレオンの前で膝をついたノエルちゃん。
ビンタをするのかと思いきや、片手でレオンの頬をむにゅとさせていた。
不細工な面になるレオンが顔を上げて、目を瞬かせている。
その顔を見てくすりと笑ったノエルちゃんは、地上に舞い降りた天使だった。
「僕はお土産があってもなくても、レオンさんが僕に毎日会いに来てくれたことが嬉しかったです」
「っ……」
(桃色天使、ノエル降臨……っ!)
ほうっとノエルちゃんに見惚れているレオン。
本当に反省しているのかと、赤頭を引っ叩いてやりたいけど、僕もノエルちゃんにメロメロだ。
そしてノエルちゃんは、隣で不服そうな表情を浮かべている恋人に視線を向けた。
「エディー。他人事じゃないよ? いくら忙しいからって、いつも良くしてくれているレオンさんを、顎で使うようなことをして……」
「っ……いや、そういうつもりじゃ」
「それに、レオンさんに誤解されないように、一言言うべきだったと思う。もしくは、僕宛の手紙を添えればよかっただけなんじゃないのかな?」
「……確かに。ごめん」
いつのまにかレオンではなく、エドワードが叱られている。
この前会った時のノエルちゃんは、エドワードに迷惑をかけたくないと、気を遣っている感じの子だったのに、今は母親のように教えている。
会わない間に、僕の大好きなノエルちゃんは、パワフルな子になって帰ってきた。
前からもっと言ってやれと思っていた僕は、逞しくなったノエルちゃんに、より好感を抱いている。
自身の行いを反省しているのか、明らかに落ち込むエドワードの顔を、ノエルちゃんが覗き込む。
「キツいこと言ってごめんね……。でも、あの時の僕は、プレゼントじゃなくて、ただエディーの顔が見たかったんだ……」
「っ、ノエル……」
へにょりと眉を下げたノエルちゃんに、半泣きのエドワードが飛びつく。
ごめん、悪いところは全部直す、好きだ、ずっと一緒にいて欲しい、って縋り付いている。
爽やかな顔をしたイケメンは、実は中身がとっても女々しかった……。
こういうところが母性本能を擽るのだと思う。
ちなみに僕は、全く惹かれないけどね?
想い人が恋人と仲直りをしている姿を間近で見て、涙をこらえて祝福するような笑顔を浮かべているレオンの方が、何百倍もかっこいいと思う。
僕の大好きなレオンには、失恋を乗り越えたついでに、エドワードを超える舞台俳優になって欲しいと、切実に願っていた。
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