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 「あの男になにされたんだ? 最後までしたのか?」
 「っ、そんなことしてないっ!!」
 「本当か? 俺は、毎日ノエルに会いに行っていたのに門前払いを食らって、死にそうな思いをしていたっていうのにっ。ノエルはあの男となにしてたんだよっ!」
 「…………え?」


 エドワードは、僕に毎日会いに来ていたの?

 初めて知ったことに驚いた声が出ると、エドワードは顔を顰めた。


 「やっぱりな……。どうせあの男が口止めしていたんだろ。本当性悪だな」
 「っ……」
 「あの男に同情した俺が馬鹿だった。ノエルのためだって言いながら、あの男は自分がノエルを独り占めしたかったんだよ。人の恋人にちょっかい出すなんて、最低な野郎だな」


 ユージーン様の悪口が止まらないエドワードは、長年一緒にいた僕が見たこともないような、鬼の形相をしていた。


 「三ヶ月経って、ようやくノエルから手紙が届いた。どうせノエルからの手紙も、あの男に握り潰されていたんだろ」
 「っ、違うよ」
 「は? ノエルは俺に会いたくなかったのか? なんで今まで手紙をくれなかったんだよ」


 責めるような言い方をされて、ムカッとしてしまった僕だけど、冷静になるように深呼吸をする。


 「エディーだって、いつも連絡をくれなかったでしょ?」


 じっと真剣な表情で見上げると、エドワードは一瞬たじろいだ。
 その隙に、僕の上に乗っかっていた体を押して、僕は上体を起こした。


 「僕が会いたいって手紙を書いて約束をしても、いつも後援者の人を優先してたでしょう?」
 「っ……それはそうだけど」
 「だから僕は、エディーから連絡が来なくても、なにも思わなかった。いつものことだって思ってたから……」


 口をはくはくとさせていたエドワードは、僕の顔を見ていられなくなったのか、目元を手で隠した。
 僕に背を向けたエドワードから、「ごめんなっ」と小さな声が聞こえてきたと思ったら、今まで怒り狂っていたのが嘘のように、エドワードが泣き始めてしまった。

 ……どうしよう。
 泣いているエドワードを見ると、僕は守ってあげないといけないと思ってしまう。

 でも、このままずるずると今の関係を続けるのは良くないと思う。
 僕は、エドワードの背を撫でようと、伸ばしていた手を引っ込めた。
 
 洗面所に向かって冷水で顔を洗って、泣きそうになるのを堪える。
 僕まで泣いてしまったら、話し合いにならない。
 タオルでゴシゴシと強めに顔を拭いた僕が寝室に戻ると、エドワードはいなかった。
 ダイニングを覗くと、ソファーで死んだように横たわるエドワードが見えて、僕は足が竦む。
 それでも僕の気持ちを伝えると、エドワードは僕に背を向けてしまった。



 それから一週間。
 来る日も来る日も話し合いをしたのだけど、結局最後はエドワードが泣いてしまって、どうにもならなかった。
 今まで通り恋人関係を続けたいエドワードと、他の人のことを考えてしまうから、一緒にいられないと思っている僕。

 でも僕は、エドワードを嫌いになったわけじゃないんだ。


 「もう、ノエルがあの男を好きでもいい……。それでも俺はやり直す機会が欲しい。今、ノエルがあの男と恋人になったら、俺は生きていけない」
 「っ、エディー。おかしなこと考えないでね? 僕とユージーン様は、そういう関係じゃないよ。ただ、僕が支えたいと思ってるだけだから……」


 真顔で僕を見つめるエドワードは、なぜか目をぱちぱちとさせていた。


 「それなら……次の舞台までは、恋人でいてほしい。その期間に俺、変わるから……。ノエルの心を取り戻してみせる。それでもノエルがあの男がいいなら、その時は諦める。……と、思う」


 今までで一番良い返事が聞けたのに、小さく「と、思う」って聞こえてきて、真面目な話をしているのに、僕はずるっと滑りそうになった。





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