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 振り返ったエドワードの青色の瞳に、熱心に見つめられる。
 エドワードも、本当はまだ話し足りないと目で訴えている。
 僕はユージーン様に頭を下げて、二人きりにしてもらえるよう、お願いをした。


 「私は隣の部屋にいるよ。なにか傷付けられるようなことを言われたら、すぐに呼んでね」


 そう言って僕の頭を撫でたユージーン様が、談話室を後にした。
 眉間に皺を寄せているエドワードは、結局ユージーン様になにも言わずに、彼の背を見送った。
 その態度に溜息が出そうになったけど、それを堪えてソファーに並んで腰掛ける。


 「あのね、メルヴィン君のことなんだけど……」
 「っ、あいつの話は嘘なんだ! 俺は、」
 「うん。わかってるよ」


 きょとんとするエドワードに、メルヴィン君がこのお屋敷に来た時のことを話した。


 「その時にね、ユージーン様から話を聞いたんだ。エディーの後援者は、みんな元々ユージーン様の後援者の人たちだから、肉体関係になることはないよって教えてくれた」
 「……そうか」
 「うん。ユージーン様がその話をしてくれたから、僕はここ最近、穏やかな時間を過ごすことが出来たんだ」


 なんとも言えない顔をするエドワードに、僕は本心を話す。


 「もしエディーに違うって否定されても、僕はきっと不安になっていたと思う……」
 「っ……」
 「だから、ユージーン様には感謝してるんだ。エディーは、僕が仕事で辛い思いをしているって思っていたのかもしれないけど……。僕が一番辛かったのは、エディーが僕を裏切っているかもしれないって思ってしまったこと……。信じたいと思うのに、大好きなエディーを疑ってしまう自分が、嫌だった……」


 少しだけ泣きそうになりながら話すと、エドワードに力強く抱き締められていた。


 「っ、本当にごめん。俺が、ノエルに甘えていたせいだ……」
 「ううん、僕がエディーを完全に信用出来なかったから……。僕が悪いんだ。だから、そんな僕はもう、エディーの隣には──ッ」


 大きな手で僕の口を塞いだエドワードは、この世の終わりのような顔をしていた。


 「頼むから、それ以上言わないでくれっ」
 「…………」
 「ノエル、頼むっ。もう一度だけ、俺にチャンスをくれっ。今度は必ずノエルを幸せにするっ。約束するからっ!!」
 「…………」
 「俺は、ノエルがいないとダメなんだよ……」


 いつものエドワードの弱音を聞いて、なんだか懐かしく思う。
 正直なことを言えば、仕事が忙しい時にこの言葉を聞くと、僕がもっと頑張ってエドワードを支えないとって思うと同時に、重荷に思うこともあった。
 それでも僕は今、エドワードを放っておくことができない。
 エドワードが幼い頃からの夢を叶えるまでは、僕が支えてあげたい。
 そう思えるのは、きっとユージーン様が僕の心に余裕を持たせてくれたから……。


 僕が頷くまで、何度も懇願する涙声を聞きながら、僕はユージーン様と、このお屋敷で働くみんなに感謝していた。


 「俺と同じ家に住まなくてもいいから、今、俺と一緒にここを出てほしい……。お願いだっ」
 「……うん。一緒に帰ろうかっ」
 「ッ、ノエルッ!!」


 いつまでも泣き止まないエドワードは、今のたった数時間で、何十年分の涙を流したと思う。
 エドワードの背に腕を回した僕は、溢れそうになる涙を堪えて目を伏せた。

 きっと僕はもう不安になることもなく、安心してエドワードが主演を務める舞台を観ることが出来ると思う。
 ……そうあって欲しいと願っていた。







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