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49 セルジオ
しおりを挟む私の希望通りの展開になったというのに、信じられない思いで、仕事どころではなかった。
ノエルを率先して冷遇していた何人かは、その日のうちに退職した。
フラフラになって帰宅した私は、魔法使いについて調べることにした。
魔法に関する分厚い本を購入し、さっそく読み始める。
一つの属性を使用出来るだけでも、魔法使いはとても貴重な存在だということがわかった。
ノエルからは、両親共に魔法が使えると聞いていた私は、正直なところ、一頁目から驚愕している。
仕事をしないマリンを馬鹿にしていたが、元より小さな喫茶店で働くような人材ではなかったのだ。
そして、魔法を連発すると、酷い脱力感に襲われるようだ。
マリンの言っていた通り、死に至ることもあるという……。
火魔法を長時間使用していたノエルは、いつも額に汗をかいていた。
それだけ集中しているのだと思っていたが、そんなわけがなかったのだ。
ホールから厨房に変わった当初、ノエルが休憩が欲しいと言っていたことを思い出す……。
具合が悪そうでも、休憩時間は決められているのだから、もちろんその申し出は却下した。
根性がない奴だとすら思っていたのだ。
ノエルと働いていた記憶を思い出せば出すほど、頁をめくることが怖くなる。
そしてノエルが、呪文を唱えずに魔法を使用していたことを思い出す。
私たちが雑用として扱っていたノエルは、この国一番の有能な魔法使いだった。
莫大な契約金だったため、ノエルが凄腕なのだと気付いていた者もいたのかもしれない。
ノエルを妬む者もいただろう。
もっとノエルの話に耳を傾けるべきだった。
……いや、違う。
ノエルが話をできない環境を、私たちが作り上げていたんだ。
厨房内が暑いからと、ノエルは風魔法で涼しくしてくれていた。
お客に出す水も、ただの水でもお客から評判だったため、水魔法もバンバン使ってくれていた。
それに、氷魔法だって……。
皿洗いの時の温水も、ノエルが勝手にやっていたことだ。
だがそれは、ノエルが私たちのことを思ってしてくれていたこと……。
私たちから無視されていたにもかかわらず、毎日時間いっぱい、一生懸命働くノエルを思い出して、涙がこぼれた。
……知らなかったでは済まされない。
「っ……ノエルっ、すまなかった……本当にっ、すまない……っ」
大粒の涙が頬を伝い、購入したばかりの分厚い本に染みが出来る。
誰の目から見ても一生懸命に働いてくれていたのに、それを当たり前だと思っていた私は、ノエルに優しい言葉をかけたことがあったのだろうか……。
反省しても後の祭りなのだが、私に出来ることはなにもない。
お喋り好きのホールの女共が噂を流し、いつのまにか私たちの居場所はなくなっていた。
最初はホールを担当していたノエルは、客にも好かれていたのだ。
料理に関しても、全てノエルの功績だったらしく、当たり前のように客足は遠のいた。
ノエルを率先して冷遇していた者たちが解雇され、新人は自ら店を辞めた。
それでも国の貴重な魔法使いを虐げていた者たちを雇ってくれる店はなく、皆が生きるために料理人を辞めているようだ。
そして私は、店をたたもうとしている店主に土下座をして頼み込み、見習いからやり直している。
この店で働き続けていれば、もしかしたらいつかまた、ノエルに会えるかもしれない。
そんな小さな希望を抱いて、働き続ける。
ノエルと会える日が先か。
それとも、店が閉店するのが先かはわからない。
だが、ノエルに会えた時は必ず謝罪しようと心に決め、今日も冷たい水で汚れがこびりついた鍋を洗う。
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