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48 セルジオ

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 ノエルに私の元に戻ってきて欲しいと伝えたい。

 私が想いを伝えれば、きっとノエルは大きな瞳を潤ませて頷いてくれるだろう。
 ノエルの泣き顔を想像しただけで、背筋がゾクゾクしてしまう。
 またあの可愛らしい顔を見るために、まずやらなければならないことがある。


 今日も今日とて騒いでいるマリンの前に立った私は、今までの鬱憤を晴らすように叫ぶ。


 「いい加減にしてくれ!!」


 いつも無口な私が怒鳴り声を上げたからか、料理人たちが動きを止めた。
 だが、「はあ?」と不細工な顔をしたマリンが怯む様子は見られない。
 皆の視線を背に受ける今の私は、悪役を成敗するために立ち上がったヒーローだ。


 「お前が、楽したくて嘘をついていることはわかっているんだ。前の魔法使いは、丸一日魔法を使用しても、平気な顔で働いていたんだからな!!」
 

 私に怒鳴られて、ぽかんとした顔のマリン。
 相当驚いた顔をしている。
 そうだそうだ、と周りの者たちも声を上げ、一気にマリンを追い詰める状況が整った。

 フッと勝ち誇った顔をすれば、呆気に取られていたマリンだったが、急に腹を抱えて笑い出した。


 「ふっ、アハハハハッ!!!! そんなことできる人がいるわけないでしょ? 魔力が枯渇して、普通に死ぬから! ばっかじゃない? アンタこそ、もっとまともな嘘つけないの?」
 「っ……」


 予想外の返答に、今度は私たちが呆気に取られ、ヒーヒー笑い転げるマリンの声が響いた。
 「う、嘘だっ!」と反論してみたものの、マリンは笑い声を大きくするだけだった。
 背後を振り返ると、私と同じような顔をしている料理人たちが顔を見合わせている。
 だが、何人かは険しい表情で私から視線を逸らした。

 あ、ありえない。
 ノエルはいつも、魔法を使いっぱなしだった。
 勤務時間はずっと……。

 呆然としている間に、いつのまにか厨房内が静まり返っていた。
 ゆっくりとマリンの方を見れば、無表情で私を睨みつけていた。
 だが、にっこりと笑みを作った。
 不気味な笑みに、知らぬ間に私は後退る。
 

 「あ。でも、一人だけいたかも……。ギルドでは『姫』って呼ばれてる特別な子。もしかして、前にここで働いていた子の名前って……ノエル?」
 「っ、」
 「はあ……。姫にはギルド長が直々に頭を下げて、大型魔獣の討伐にも参加してもらってるの。最近顔を見せないと思ったら、ここでこき使われて倒れたんだ……」


 悔しそうに唇を噛んだマリンが、優しい子だもんね……と呟いた。
 ノエルがで冒険者として活動していることは知っていた。
 だが、副業なのだから喫茶店の仕事を優先しろと、疲労しているノエルを罵倒して、半ば強制的に働かせていたのだ。


 「姫は、ギルド長のお気に入りの子だよ。ちなみに、他の冒険者たちも姫に助けてもらった人が多いから、すっっごく好かれてるよ? もし、姫に強制的に魔法を使用させていたのなら、アンタたち、どうなっちゃうんだろうねぇ~?」


 見せつけるように、ゆっくりと首を刎ねるジェスチャーをしたマリン。
 荒くれ者ばかりの冒険者に襲撃される光景を想像してしまった私は、その場で尻もちをついていた。

 すっと立ち上がったマリンが呪文を唱え始め、その場にいた者全員が全身水浸しの刑に処された。


 「二度と姫に関わるな」
 「っ、」
 「コイツだけじゃない。アンタたち全員に言ってることだからね? この国を守るために、魔獣を討伐している魔法使いを冷遇していただなんて、本当最低ねっ!! 姫を探し出して復帰させようとするなら、パパに言いつけてやるんだからッ!!」


 反省しやがれっ!! と吐き捨てたマリンは、その日のうちに店を辞めることになった。

 










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