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46 セルジオ

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 知る人ぞ知る喫茶店、プリマヴェーラの凄腕料理人として名をせていた私は、見下していた料理人たちの前で全身水浸しになり、人生最大の屈辱を味わっていた。

 
 「火力を調節しろ? アンタさぁ~。なにおとぎ話みたいなこと言ってるわけ? ふざけてんの?」


 ノエルの代わりに派遣されてきた少女──マリンが、馬鹿にしたように鼻で笑った。

 すみれ色のツインテールを揺らすマリンは口が悪く、仕事もやる気がない。
 ただ時間が過ぎるのを待っているだけで、今のところ戦力には数えられなかった。

 父親が有名な冒険者だったため、その才能を受け継ぐマリンに誰しもが期待していたが、とんだハズレくじを引いてしまったようだ。

 だが、この娘には多額の契約金を支払っているのだから、給金分は働いてもらわなければ困る。
 そう思い、ノエルと同じことをさせようとすると、マリンがなにやら長い呪文を唱えた後、私は頭から水をぶっかけられていた。


 「少しは頭が冷えたかしら?」
 「っ……前の魔法使いは、当たり前のように出来ていた」
 「はあ? 前いた人がどうだったかは知らないけどっ。魔力をコントロールするなんて難しすぎて、そう簡単にできるわけないじゃない。バカなの?」
 

 フンと顎を突き出したマリンは、挑発的な目で私を見ている。
 この少女が嘘をついているようには見えない。
 だが、ノエルは言われたことはなんでもやっていた。
 火力調節も最初は手こずっていたが、何度も何度も挑戦して、最後は私のレベルに付いて来られるようになっていたのだ。
 魔法使いなら、それくらいの努力をしろと思っていると、マリンはわざとらしく溜息を吐いた。


 「そ・れ・に! 破格の金で働いてやってるんだから、出来たとしてもやるわけないし。特別に金を上乗せしてくれるなら、話は別だけどね?」
 

 腕組みをしたマリンは、相変わらず私を馬鹿にしたような目を向けていた。
 なんて傲慢な性格なのだと、頭が痛くなる。
 未成年だからかノエルより安い契約金だが、これでは使い物にならない。


 「あとね。火力云々の前に、私が得意なのは水魔法。お分かり?」
 「…………だから?」
 「はぁ~~~~っ。もう本当イヤっ! これだから凡人とは喋りたくないんだよっ。複数の属性を使える人が、こんな小さな店で働くわけないでしょ? やっぱり私のことバカにしてるよね? ああ~、気分悪いっ。もう帰るっ!!!!」
 「っ、」


 さっさと厨房を後にしたマリンに、呆気に取られる。
 その間にも注文がバンバン入り、私はびしょ濡れのまま調理をする羽目になった。
 そして、いつもと違って不味いと苦情が相次ぎ、店主からも怒鳴られ、最悪な一日を過ごすことになってしまった。

 今日は仕方がないか、となんとか気持ちを切り替えたのだが、この日を境に、私は自分の実力を過信していたことを知ることになる。








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