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しおりを挟む小さなテントの中で川の字に寝転び、星空を見上げていた僕は、本心を語っていた。
ユージーン様の視線が、僕の横顔に刺さる。
いつもは、ただ同じ空間にいるだけで穏やかな気持ちになるのだけど、今は無言の時間が耐えきれなくて、僕は二人の間にいる子猫を抱きしめる。
テオの匂いを嗅いでいるふりをする僕は、さりげなくユージーン様から顔を背けた。
「ノエル、私を見て?」
「っ、どうして?」
「ふふっ、いいから」
「イヤです。また揶揄うつもりなんですよね? ユージーン様の性格は、この一ヶ月でなんとなくわかっていますからっ!」
「……それは嬉しいな」
褒め言葉ではなかったのに、隣からは小さく笑った声がした。
普段は優しいユージーン様だけど、僕と二人の時はちょっとだけ意地悪。
好きな子を揶揄う、子どもみたいだ。
いや、決してユージーン様が僕を好きってわけではないのだけど。
昔よりも同じ時を過ごしているのに、ユージーン様は、必要以上に僕に触れなくなった。
僕を気遣ってのことなのだろうけど、代わりに言葉で揶揄ってくる。
それなら、昔のように頬をむにむにとされた方がまだマシだと思った。
ふと、僕たち以外の気配がして、僕はさっと体を起こした。
万が一、みんなに慕われているユージーン様になにかあったら大変だ。
泥棒が来たのなら、僕が魔法をぶっ放す。
きっとユージーン様は驚くだろうけど、その時はその時だ。
神経を集中させていると、庭師のフランツさんの匂いがした。
ほっとしていると、今度はユージーン様の纏う空気が冷たくなった気がした。
「誰か来たみたいだね」
「……こんな時間に?」
「同感だよ。ごめんね、ノエル。先に部屋で休んでいてくれないかい? 緊急の用件かもしれないし、話を聞いたらすぐに戻るよ」
そう言って、さらっと僕の額に口付けたユージーン様が微笑を浮かべた。
エドワードにもしてもらった事がないのに、こういうことを平然とした顔で出来るって……すごい。
色っぽいユージーン様にクラクラしそうになっていた僕は、慌てて表情を引き締めた。
そんな僕を見たユージーン様は、顔を背けてこっそりと笑っている。
いつものように揶揄われているのだけど、僕はそんな日々がとっても楽しい。
声を上げて笑ってしまうこともあるくらいだ。
エドワードのことは好きだけど、メルヴィンくんの顔を思い出して暗い気持ちになるだけだから、ずっと考えないようにしていた。
そんな僕の頭の中を占めるのは、エメラルドグリーンの瞳が綺麗な人。
エドワードはいつも忙しかったけど、ユージーン様はずっと僕のそばにいてくれる。
看板俳優になれば、時間があるのかな? と思ったけど、そういうわけでもないみたい。
だから、僕のせいでお仕事に支障が出るなら、僕は一人でも大丈夫だって話したのだけど……。
『ノエルのせいじゃないよ。確かに最初は、ノエルのために、って思っていた部分もあったよ? でもそれは最初だけだった。ノエルの傍にいたいと願う、私自身のためだよ。ノエルは私にとって、なによりも大切な存在だからね』
だから気にしないで、と笑顔で話してくれた。
ユージーン様が僕にくれる言葉は、すべてがあたたかい。
仕事もせずに、朝昼夜と三回ご飯を食べているだけで褒められる。
甘やかされている気分だ。
僕は長男だし、エドワードといる時はいつも励ます係だったから、甘やかされることにあまり慣れていない。
だからユージーン様の優しさは、僕の心の奥深くに染み渡る……。
僕が寝台に寝転んだことを確認したユージーン様が、「すぐに戻るよ」と告げて扉に向かう。
その背を眺める僕は、知らぬ間に溜息をこぼしていた。
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