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しおりを挟むどうしたのだろうと、少しだけ背伸びをして見つめていると、ユージーン様と目が合った。
切れ長の目がカッと見開き、さっきまでとは別人のように美しい笑みを見せてくれた。
「ノエル」
「っ…………」
手を振ろうとしたのだけど、ユージーン様と向かい合っていた人物が、勢いよく振り返る。
銀色の髪をビシッと整えて、いつも僕の隣で弱音を吐いていた恋人とは思えないほど、凛々しい姿のエドワードがいた。
でも、久々に見たエドワードは、目が飛び出るんじゃないかと思うほど驚愕していて……。
どうしてか、顔は青褪めているように見えた。
「っ、ノエルちゃんじゃねぇかッ!!」
「ふふっ。お久しぶりです」
劇団のみんなが僕に気付いて、あっという間に囲まれていた。
せっかく髪をセットしたんだから! と、僕の頭を撫でようとする人々を、アルバートくんが威嚇している。
それでもみんなの圧がすごくて、レオンさんとアルバートくんとは、あっという間に離れてしまった。
「うぉお~ッ!! 会いたかったぜッ!!」
「ていうか、めちゃくちゃ可愛い! 妖精みたいだな?」
「さすがは俺たちの癒しっ!」
「ノエルちゃ~んっ!! 今からでも、俺たちの仲間になってくれよぉ~っ!!」
みんなとは三年ぶりくらいに会ったというのに、僕のことを覚えてくれていた。
そのことが嬉しくて、僕は自然と笑顔になる。
ユージーン様とも話したいのだけど、エドワードがいるから今日は諦めよう。
そう思ってちらりと視線を送ると、エメラルドグリーンの瞳とバッチリと目が合った。
でも、後援者の女性に話しかけられて、すぐに視線は逸れた。
和やかに会話をしながら、優雅に歩くユージーン様に、みんなが道を譲る。
「すごく綺麗だね。似合ってるよ」
すれ違いざまに、小さな声で僕を褒めてくれたユージーン様。
後援者の女性を連れて、会場から去っていった。
その背を見送ると、会場内のどことなくピリピリしていた空気が消えていた。
「ノエルっ!!」
急にエドワードに腕を取られて、僕はその場で固まってしまった。
だって、すごく怒っている時の声だったから。
エドワードが僕に怒った時は、一度だけ。
ユージーン様に仕事を紹介してもらったことを話した時に、なんで相談してくれなかったんだって、ちょっと怒られた。
それは僕も悪いと思って謝ったけど、その時と比じゃないくらいに怒っていると思う。
手を引かれてバルコニーに出ると、エドワードが僕の両肩に手を置く。
力が強くてびくんと体が跳ねるけど、決して離してはくれなかった。
恐る恐る見上げると、夜なのに目が血走っているのが見て取れた。
「どうして来たんだ」
「っ、ど、どうしてって……」
そんなの、理由は一つしかないのに……。
やっぱり迷惑だったのだろうなと、察した。
でも、今日は絶対に話したいと思っていた僕は、勇気を振り絞る。
海のような瞳を見上げ、震える唇をなんとか動かした。
「エディーに、会いたくて……」
「っ、」
エドワードが息を呑み、気付いた時には力強く抱きしめられていた。
甘く爽やかな香水の香りがする。
この香りはエドワードの匂いじゃない……。
胸がズキンと痛くなる。
でも……、どこかで嗅いだことのある匂い。
「俺も会いたかった……」
切ない声色に、僕はなにも考えられなくなって、エドワードにぎゅっと抱きついていた。
僕の首筋に甘えたように頬ずりをするエドワードが、小さく笑う。
そして、独り言のように呟いた言葉に、僕は驚きの声を上げていた。
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