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18 エドワード
しおりを挟む紹介していただいた方々とも良好な関係を築くことが出来た俺は、天にも昇るような気持ちになっていた。
喜びの表情を隠しきれない俺を見ているヴァイオレット様の瞳は、まるで本当の子供を慈しんでいるかのようだった。
夕飯をご馳走してもらうことになり、使用人に案内されてだだっ広いダイニングに向かうと、綺麗な服を着た子供たちが待っていた。
「エド。この子たちとも仲良くしてくれるかしら?」
「「よろしくお願いします」」
行儀良く頭を下げた子供たちから、キラキラとした目を向けられる。
俺以外にも邸に住んでいる若者たちは、ヴァイオレット様に恩があるのだそうだ。
見た感じ、全員俺より歳下だが、人懐っこい子ばかりで、中には舞台俳優を目指している子もいて、すぐに打ち解けることが出来た。
ヴァイオレット様が席を外し、みんなが邸を案内してくれることになった。
あまりに広すぎて、なにがなんだかほとんど覚えられなかったが、いつでも案内すると声をかけてくれた。
最後に談話室でお茶をすることになり、それぞれ自己紹介をしてくれ、俺は胸が痛くなっていた。
孤児だったり、借金が原因で売られそうになっているところを助けてもらったなど、複雑な事情を抱えた子ばかりだったからだ。
「僕は、贅沢なんてしなくても、屋根があるだけで幸せなんです。それなのに、温かな部屋とご飯を用意してくれて、洋服も、いつも新品で……。どうやって恩返しをしたら良いのだろうって、いつも考えています」
「……そうか」
サラサラとした金色の髪が綺麗なテイトくんは、現在十五歳。
親に捨てられて、十歳まで貧民街で生活していたそうだ。
飢え死しそうで盗みを働いて、店主に暴行されていた時にヴァイオレット様に助けられた。
愛情たっぷりに育ててくれて、彼女のことを本当の母親だと思っていると話してくれた。
ヴァイオレット様の善行は素晴らしいとは思ったが、俺はノエルのありがたみを感じていた。
ノエルが支えてくれるおかげで、俺は家や食事の心配をせずに稽古に励んでいたのだ。
当たり前ではないと思っていたけど、どこか甘えていたのだと痛感した。
「エドワード様は、いなくならないでくださいね?」
「……それって、ユージーンさんのことか?」
顔を見合わせた子たちが、ゆっくりと頷いた。
「ユージーン様は、ヴァイオレット様にとって、特別なお方でした……。とても仲が良かったです。でも、喧嘩をしたわけでもないのに、数年前からよそよそしくなって……」
「あの日も……。ヴァイオレット様が、一人でいたくない日だとわかっていたのに、ユージーン様はヴァイオレット様を裏切ったんです」
「あんなによくしてもらっていたのに! 僕は、ヴァイオレット様を悲しませたユージーン様を許せませんっ!」
鮮やかなエメラルドグリーンの瞳に涙を浮かべて訴える男の子たちを、俺なりに慰める。
ヴァイオレット様は、俺を気に入ったと言ってくれていたが、ユージーンさんの身代わりになっただけだったことを悟った。
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