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しおりを挟む色とりどりで見た目も可愛いマカロンは、桃色が多く詰められていた。
きっと僕に、いろんな味のものを食べさせたいと思ってくれたのだろう。
レオンさんの瞳の色に似たマカロンを手にしていた僕は、彼の優しさに笑みを溢した。
「ふふっ、我儘な子どもみたい。ちょっと大きいけど」
「ノエルちゃんが小さいだけじゃ、ふぐっ」
「よ~く味わって食べてくださいね?」
僕の悪口を言おうとする口に、ご要望通りの桃色のマカロンを突っ込んであげると、レオンさんは嬉しそうに咀嚼する。
仕事終わりの一時間だけのお茶会だけど、レオンさんのおかげで僕の心は潤っていた。
それに、レオンさんはエドワードの近況を話してくれるから、僕はこの時間を大切にしている。
「今は主役になることで頭がいっぱいだけど、エドはノエルちゃんのことを忘れたわけじゃないからな?」
「……はい」
「でも、俺だったら恋人を優先するけどなぁ」
「……そう、ですよね。僕に会いたくないのかなって思ったりして……」
「っ、ごめん。そんな顔させるつもりで言ったわけじゃなくてっ」
しゅんとする僕を見たレオンさんが、慌てて僕の隣に座ってよしよしと頭を撫でてくれる。
一つしか歳は変わらないのに、僕を子供扱いしていると思う。
結局、レオンさんばかりがマカロンを食べて、また明日もお土産を買って来ると、恥ずかしそうに赤髪を掻いていた。
キッチンに向かい、一緒に食器を片付けてくれたレオンさんが、ゴミ箱の中を見て目を丸くする。
さっき捨てたばかりの、ぐしゃぐしゃになったハンバーグが丸見えになっていた。
「なんで捨てたんだ? また胃が痛むのか?」
体調が悪いなら、早く医者に診てもらおうと僕を心配してくれるレオンさん。
我慢出来る痛みだし、余計な心配をかけたくない僕は、大丈夫だと答える。
「これは、エディーの分……」
「……そっか。な、ノエルちゃん。俺、食費払うからさ、今度から余ったら俺に食べさせてよ」
勿体無いとばかりに眉を下げるレオンさんに、僕はなんとも言えない顔をしてしまう。
いくら夕飯をご馳走するからといって、友人から金銭を貰ってもいいのかな……?
それに、気持ちはありがたいのだけど、僕はもうエドワードの分の夕飯を作るのは、やめようと思っていた。
「嫌か?」
「っ、違います。そうじゃなくて、食費をもらえるような腕じゃないから……」
「なんだ、そんな理由か」
けろっとした顔になるレオンさんに、時間が合う時は必ず顔を出すから、夕飯を作って欲しいとお願いされてしまった。
もしエドワードが帰って来るなら、その日はいらないと言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。
「でも、いつもお土産をもらっていますし、食費はいりませんよ?」
「ハァ、本当に良い子すぎ。心配になるわ……」
額に手を当てるレオンさんが、困ったように溜息を吐く。
伏せていた瞼がゆっくりと持ち上がり、翡翠色の瞳に見下ろされる。
「ノエルちゃんは、俺に食い逃げしろって言ってんのか?」
「へ?! そんなことは一言も……」
「よしっ。じゃあ、金は受け取ってくれよな?」
わしゃわしゃと僕の髪を撫でたレオンさんは、来た時よりも嬉しそうに帰って行った。
そして僕もまた、明日はなにを作ろうかと考えることになり、久々に胸が踊っていた。
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