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しおりを挟む幸せな夢を見た日から三ヶ月が経ち、僕たちの関係はガラリと変わっていた。
大物の後援者を獲得したエドワードは、主役の座は掴めていないものの、今では当たり前のように舞台に立つようになっていた。
そろそろユージーン様の時代が終わり、エドワードの時代がやって来ると噂されている。
新たな王子様の出現に、エドワードの周りは煌びやかなものに変わっていた。
そして僕はというと、帰って来るかもわからない恋人のために作っていた夕飯を、ゴミ箱に捨てていた……。
後援者の人たちとの付き合いがあるから、エドワードからは、夕飯はいらないと言われることが多くなった。
参加しているパーティーで出される、豪華な料理を食べているのだろう。
最近では夕飯の有無も言われなくなって、当たり前のように外食をしている。
深夜に帰宅し早朝には家を出ているようだけど、僕は最近寝付けなくて、薬を飲んでいるから、正直エドワードが帰ってきているのかすらわからない。
外食をするより、僕の手作り料理の方が好きだって言ってくれていたのに……。
お世辞だったんだなって、ようやく気付いた。
「僕って、エディーに必要な存在なのかな?」
いつものように寂しく部屋で独りごちる。
お互い仕事があるし、仕方がないのだけど、一ヶ月近く顔を合わせていない。
今の関係って、本当に恋人なのかな……?
食欲がなくてぼーっとしていると、ノックの音がした。
すぐに扉を開けると、見慣れた赤髪の友人が手土産を持ち上げる。
「レオンさんっ!」
「よっ、ノエルちゃん。悪いね、こんな時間に」
「いえ。今日もわざわざ来てくれたんですか?」
「帰り道だから、ついでだよ」
にかっと笑ったレオンさんを家に招き入れる。
エドワードの劇団の仲間であり、僕たちが王都に行く時に同じ馬車だったこともあって、すぐに仲良くなった人だ。
新しく働き出した職場の帰り道だなんて言っているけど、きっと違うと思う。
最近はエドワードが忙しいから、僕が寂しい思いをしていないかと心配して、こうして家に遊びに来てくれている優しい人だ。
「今日のお土産は、最近流行のマカロンって菓子だぞ。女性に人気なんだ」
「わあっ! コロッとしてて可愛いですね?」
「くくっ。俺は、この菓子よりノエルちゃんの方が可愛いと思うけどな?」
「っ、え?」
さらっと甘い言葉を吐いたレオンさんは、僕の口にマカロンを突っ込んだ。
照れ臭そうに笑う顔を見つめ、口内には甘くて優しい味が広がり、僕も自然と顔が綻ぶ。
仕事終わりで疲れているであろうレオンさんにソファーに座ってもらい、少しでも疲れが取れますようにと、僕は温かな紅茶を用意する。
この一杯を飲むために僕に会いに来ていると語るレオンさん。
ちょっぴり大袈裟だと思うけど、万人に好かれる性格だと思う。
「ああ~、今日も疲れた。俺はエドみたいに大物の後援者がいないから、仕事を掛け持ちしなきゃ生活できないんだよなぁ~」
「努力家のレオンさんなら、人気者になれると思いますよ? 僕は応援してます」
「ん、ありがとな? ノエルちゃんといると、癒されるっ。それ、俺にも一つ食べさせて?」
いつものようにあーんと口を開けるレオンさんは、仕事の後は動きたくないらしい。
僕もその気持ちは痛いくらいにわかるから、黄緑色のマカロンを手に取った。
「それじゃない。桃色がいい」
やけに真面目な顔で告げたレオンさんは、じっと僕を見つめていた。
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