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 俺が舞台俳優になりたいと思ったのは、ノエルがきっかけだった。
 人見知りの俺に友達ができるようにと、いつも気を配ってくれていたノエル。
 それでも俺は、ノエル以外とは上手く話せなかった。

 話したこともないのに、他人からは勝手な理想像を作り上げられて、少しでも期待外れなことを言えば、『かっこいいのに残念……』と言われていた。
 でも、ノエルだけは違った。
 俺が弱音を吐いても、道端で派手に転んだとしても、笑顔で手を差し伸べてくれる。
 

 ある日、俺が初めて王都で舞台を観て、どんな物語だったのかを伝えるために、手っ取り早く王子役の真似をしたんだ。
 まったく演技はできていなかったんだけど、本物の王子様みたいだと感動したノエルが、急にヒロイン役をやり始めて。
 俺たちは時間も忘れて、演技を楽しんでいた。
 
 それからノエルが、俺に内緒で歳の近い子を集めて、俺たちふたりの演技を見られたんだ。
 面白いと言ってくれた人たちが参加し始めて、みんなと仲良くなることができた。
 その日のことがずっと忘れられなくて、俺は舞台俳優になりたいと思うようになった。
 

 幼馴染みのノエルのことはずっと好きだったが、この時から俺は、ノエルを恋愛対象として見るようになっていた。


 田舎町でも、ノエルを好きな奴は大勢いた。
 でも、恋敵が俺だとわかれば、大抵想いを伝える前に諦める。
 それでも、ノエルが同性である俺を受け入れてくれるのかわからないし、気持ち悪いと思われるかもしれない。
 最悪、友達ですらなくなってしまうかもしれないと考えただけで、俺はなかなか想いを伝えることが出来なかった。
 そこに強敵──ユージーンさんが現れて、焦った俺は、その日のうちにノエルに告白していた。
 
 純粋なノエルを丸め込むような形になったが、幼馴染みから恋人になることが出来た。
 ある意味、ユージーンさんには感謝している。
 

 「恋人の話をするときは、すごくいい顔をするのね? 気に入ったわ。私の友人を紹介してあげる」

 
 お互い相手がいるし、俺はノエルのことばかり話していたのに、なぜかヴァイオレット様が俺の後援者になると話してくれた。
 ユージーンさんには、彼女以外にも男女問わず大勢の後援者がいる。
 優先はしてくれるが、気軽にお茶に誘える相手が欲しくなったらしい。
 完全なる棚ぼたなのだが、俺は嬉しすぎてちょっと泣いた。
 だって、これでノエルとの夢に近づけることになるのだから……。


 「体の関係を求めたりしないから安心なさい。私ももう若くはないからね」
 

 ふふっと上品に笑ったヴァイオレット様は、まだ二十代に見える。
 求められた時は断ろうと顔に出ていたのか、彼女が俺に耳打ちをした。


 「っ……」
 「驚いた? 貴方のお母様と同じくらいの年齢かもしれないわね?」
 

 若い子を見ているだけで心が潤うと語ったヴァイオレット様は、俺の母さんより歳上だった……。
 
 化粧や日頃の努力で、若い頃の美貌を保ったままの彼女を心から尊敬した。
 若干恐ろしいとも思ったが、彼女は俺の知らないことをたくさん知っているから、たわいもない会話をしているだけなのに、勉強になる。
 
 失礼かもしれないが、母親のようだと思いながら、有意義な時間を過ごすことになった。









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