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 夕方まで働いた後は、喫茶店に向かう。

 隠れ家のようなレトロな喫茶店では、厨房担当。
 最初は可愛い女の子たちとホールを担当していたのだけど、ここでも僕は足を引っ張った。
 静かな空間で寛ぎたい人ばかりなのに、田舎者丸出しの僕は、お客さんに話しかけられるとつい話し込んでしまう。
 来店したほとんどのお客さんから、焼き菓子やお花、チップを渡される。
 他の若い子たちは上手くあしらっているけど、僕には真似出来なかった。
 ホール担当の男は僕だけだったからか、若い子が多い職場なのに、僕だけ浮いていた。

 そして、ここでもどうしてか生活魔法を使えることを知られていて、厨房に回されることになった。
 食器洗いの時に水を温水にしたり、火起こしをして、調理中の火力を調整する係。


 「ノエル、集中しろ」
 「は、はいっ」


 小さな声だけど、心が冷えるような尖ったもの。
 神経質なセルジオさんに、鋭い目付きで睨まれた僕は、手元に集中する。
 瞳も氷のように冷たい色をしているけど、料理人の中では一番腕がいい。
 怒鳴ることはないけど、小さなミスも許せない人だから、僕も必死に魔法をコントロールしている。

 これがなかなか難しい。
 でも、怒られ続けた今では、ちょっぴり苦手なセルジオさんと息ピッタリになっていた。
 


 厳しくあたってくる人ばかりだけど、美味しいメニューを一通りマスターすることが出来たから、エドワードも喜んでくれている。
 本当は辞めたいのだけど、仕事終わりには、その日の余り物の食材を安く購入することが出来る。
 それがすごく助かるから、続けているわけだ。


 それに、絶対に辞められない理由がある。


 働き始めて二年が経った頃、二店舗で三年契約をすることになった。
 それまでは、店主の人たちもそこまで厳しくなかったのに、契約後はガラリと態度が変わった。
 早くに辞めることになれば、罰金を払わなければならないそうだ。
 騙された気分になったけど、冒険者の方が給金がよくても、体を壊せばお終いだ。
 僕がどんなに辞めたいと思っても、契約期間のあと一年は、宿屋と喫茶店の仕事を辞めることは出来ない。

 





 今日もへろへろになって帰宅すると、部屋の明かりがついていた。
 おずおずと玄関の扉を開けると、すぐにエドワードが走って来る。
 恋人の満面の笑みを見た僕は、少しだけ疲れが取れた気がした。


 「ノエル、おかえり。疲れただろ? 今日は俺が家事をするから、ノエルはゆっくり休んでくれ」


 手を引かれて食卓に向かえば、エドワードが夕飯を準備して待ってくれていた。
 手作りのものではなかったけれど、初めて用意してくれたことに、僕は驚きを隠せなかった。





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