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 予想外の返事だったのか、エドワードはかなり驚いている。
 でも、次の瞬間には頬はじわりと赤らみ、喜びをあらわにしていた。
 僕の許可を得たのだから、今すぐパーティー会場に向かいたいのだろう。
 それなのに、エドワードは離れたくないとばかりに、僕の手をきつく握り締める。


 「っ…………いいのか?」
 「当たり前でしょ? 今もエディーを待ってくれているなら、すぐに行くべきだよ!」


 でも、と悩むエドワードだけど、しきりに時間を確認している。
 もう気持ちは決まっているはずなのに、僕を置き去りにする罪悪感に襲われているのだと思う。
 だからそんな優しい恋人に、僕はとびっきりの笑顔を向けた。


 「エディーを応援してくれる人は、僕にとっても大切な人だよ」
 「っ……ノエル、ありがとう。俺、行ってくる」
 

 力強く頷いたエドワードは、僕を抱きしめる。
 それから、身につけていた時計を外し、ポケットに仕舞った。


 「ノエルのためにも、必ず成功させてみせる」
 「うんっ! 全員虜にしちゃえ!」
 「ククッ、頑張るよ。でも、ノエルは──」


 まだ話そうとするエドワードに、僕は早く行っておいでと、背中を押す。


 「今回は、僕だけ魔法列車を楽しむことになっちゃうけど、次は一緒に乗ろうね?」
 「っ、ああ、約束だ」


 今日一番の笑顔を浮かべたエドワードは、颯爽と走り出した。
 その背を見つめていると、途中で振り返った男前が片手を上げる。
 左手首には、銀髪のエドワードには似合わない、ゴールドの腕時計が光っていた。
 そのことに気付いていないフリをする僕は、貼り付けた笑顔のまま、大きく手を振り返した。



 エドワードが僕に帽子を被せたのは、無名の舞台俳優でも、恋人がいることを知られたくないから。
 マフラーで顔を隠したのは、大切な相手が男だと露見すると困るから。
 用意してくれたチケットや誕生日プレゼントは、ろくに給料を貰っていないエドワードが、購入できるようなものではない。



 すべてわかっていて、僕はなにも言わない。



 順番待ちをしている人に道を譲り、はしゃぐ人たちが次々に魔法列車に乗り込んでいく。
 見送りに来ている人たちに紛れる僕は、恋人と乗るはずだった特等席を、ぼんやりと眺めていた。


 ゴーンと鐘の音が鳴り、最終列車が出発する。
 
 
 仕事が辛い日々の中でも、持ち歩くだけで僕を幸せな気持ちにしてくれていた大切なチケットは、今やただのゴミ屑と化していた。
 未練たらしくじっと見ている間に、辺りが静かになる。
 記念に取っておこうかと迷ったけど、僕は用済みになったチケットを、小さくなるまで破く。
 それを手のひらに乗せれば、寒風が夜空へと運んでくれる。

 僕の宝物は、雪になって消えた。


 「ハッピーバースディ……ぼく」


 どうにかして休暇を取得したけど、結局、今年も誕生日を一人で過ごすことになった僕は、暑苦しいくらいの防寒具を装備しているのに、寒くて仕方がなかった。







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