尽くすことに疲れた結果

ぽんちゃん

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 「おっ、エド!」
 

 煌びやかなパーティー会場に辿り着けば、目立つ赤髪の友人が片手を上げて俺の元へ歩いてきた。
 劇団のメンバーの中で、一番気の合うレオン。
 一つ年上の先輩だが、俺と同じく田舎出身だからか、俺の面倒を見てくれている。
 

 「ノエルちゃん命のお前が、まさか来るとは思わなかった」
 「ああ、ノエルが行ってこいって背中を押してくれて……」
 「くぅ~。誕生日だってのに、本当にいい子だよなぁ~」
 

 ノエルのことを気に入っているレオンから、羨ましいとばかりに肘打ちをされる。
 パーティー自体が苦手な俺だが、自慢の恋人を手放しで褒められて、自然と笑みを浮かべていた。
 
 遅れて登場したからか、参加者からの視線が集まる。
 前回の舞台で脇役を演じたことで、少しは顔が売れたのかもしれない。
 ノエルのためにも、俺は、後援者になってくれる人を、一人でも多く捕まえなければならない。

 正直、パーティーに慣れていない田舎者の俺は、常に背伸びをしている。
 窮屈な時間ではあるが、ノエルのためなら、俺はなんだって出来る。
 最初は自分の夢を叶えるために王都へ来たのに、今では応援してくれるノエルために、という気持ちが前に出ていた。


 レオンの知人を紹介してもらい、挨拶をしていると、一際目立つ女性が俺の前に立った。
 身に着けている装飾品は、流行に疎い俺でもわかるほどの高級品。
 人見知りで口下手な俺は、特に女性と会話をすることが苦手なのだが、ノエルがいつも褒めてくれる笑みを浮かべると、自然と会話が弾んだ。
 

 「今晩、どうかしら?」
 「申し訳ありません、俺には大切な人がいますので……」
 「あら、そうなのね」
 

 ふふっと妖艶に笑った美女は、俺に会いたいと話してくれていた人物だったのだが、結局他の参加者を連れてパーティー会場を去っていった。
 他の後援者になってくれそうな人とも、同じような会話をして終了する。
 せっかくノエルが送り出してくれたというのに……。
 自分の情けなさに、溜息を吐いた。

 田舎では町一番の美男子だともてはやされていたが、王都へ来れば俺よりも美形は大勢いる。
 昔は美形だと褒められても嬉しくはなかったのだが、今ではもっと人の目を惹く顔立ちだったらよかったのに、と思ってしまう。


 「残念だったな」
 「ああ、仕方ない」
 

 肩を竦めるレオンの隣には、新たな後援者となる男性が立っていた。
 気さくなレオンの後援者は、ほとんどが男性だ。


 「レオンは早く彼を連れて抜けてくれ。ライバルは一人でも少ない方がいいからな?」
 「はいはい、強がるなって」


 一人になる俺を心配してくれている友人に、さっさと二人で楽しんでこいと背中を押した。
 仲良く去っていった二人の背を見送り、俺は天を仰いだ。



 実は、俺はノエルに嘘をついていることがある。



 ノエルには、俺の後援者は二人いると話しているが、実際には一人もいなかった。
 俺を、誰よりもかっこいいと言ってくれるノエルに、魅力のない男だと知られることが怖かった。



 この時の俺は、その小さな嘘が、ノエルを苦しめていることに気付いていなかった……。










 




 
 
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