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しおりを挟む実際、体を張れば後援者は増えるのだと思う。
他の人たちからは甘いと思われるかもしれないが、それだけはどうしてもしたくなかった。
ノエルを裏切るようなことをするくらいなら、俺は舞台俳優になる夢を諦める道を選択する。
ずっとそう思ってきたが……。
四年経ってもこのざまなのだから、もう腹を括るしかないのかもしれない。
らしくないことを考えてしまい、慌ててかぶりを振る。
休憩しようと飲み物を取りに行くと、そこで桃のデザートが目に留まり、俺の沈んだ心が晴れやかになった。
甘いものは好物ではないが、桃は特別。
ノエルのくりんとした、愛らしい桃色の髪を思い出すからだ。
瞳は桃と金が混じる、特別な色をしている。
あたたかな色をした大きな瞳に見つめられるだけで、胸がいっぱいになる。
俺の初恋であり恋人のノエルは、可愛らしい顔立ちで、笑顔は眩しくて今でも心臓が跳ねる。
実際、俺が劇団に見習いとして入ることになったのも、ノエルのおかげだった。
劇団の長であるカーターさんも、俺ではなく、ノエルを熱心に誘っていたくらいだ。
演技をせずとも人の心を掴む表情は、嫉妬してしまうくらい魅力的だ。
なにより、思いやりのある優しい性格だし、ちょっと抜けたところも可愛くて守ってあげたくなる。
何事も一生懸命で、そんなノエルが隣にいてくれるだけで、俺も頑張ろうと思える。
外食をするより、ノエルの作ってくれる飯の方が美味しいし、幸せな気持ちになる。
弱音を吐いてもうんうんと話を聞いてくれて、情けない俺を励まし、癒してくれる。
そんなノエルは、俺のかけがえのない存在だ。
告白したときは、俺がノエルを守りたいと思っていたのに、今では俺がノエルに支えられていた。
その状況を一日でも早く変えたい俺は、毎日奔走している。
だが、俺の思いとは裏腹に、現実はそう上手くはいかない。
誰よりも幸せにしたいと願ってここへ来たのに、今日収穫がなければ、ノエルに合わせる顔がない。
「貴方、向いていないわね」
急に話しかけてきた声に視線を向ければ、黒髪の妖艶な美女。
劇団の看板俳優、ユージーンさんの後援者の女性だった。
「ここへ足を運ぶ人間は、ひと時の夢を見に来ているの。一夜を共にする気がなくても、あんなにはっきり言われてしまえば、誰も貴方を選ばないわ?」
「……それはわかっていますが、俺は、恋人を裏切るような真似はしたくない」
「ふふっ、若いわね」
未亡人のヴァイオレット様は、夫の莫大な財産を相続しており、顔も広い。
ユージーンさんを今の座に君臨させたのも、彼女の存在が大きい。
珍しく一人でいるので、会場内に視線を巡らせていると、彼女がシャンパンを口にする。
「ユージーンは、外せない用があるみたいで途中で抜けたの」
「そうでしたか……」
「代わりに、今宵は貴方が話し相手になってくれるかしら?」
「喜んで」
笑みを浮かべた俺は、彼女をエスコートする。
役のためなら、誰とでも寝るユージーンさんのことは好きにはなれないが、彼女の機嫌を損ねることになれば、いろいろと面倒なことになる。
今日はもう後援者探しを諦めて、ノエルに謝ろうと思いながら、彼女との会話を楽しんだ。
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