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しおりを挟む薄らと積もる雪道を共に歩き、ユージーン様の豪邸に招待してもらった。
使用人もたくさんいて、深夜でも笑顔で出迎えてくれる。
遠く離れていた息子が久々に帰省して、喜んでいる家族のように見えて、僕の冷えきった心は溶かされていく。
それから温かな紅茶を淹れてもらい、着替えを済ませたユージーン様とお茶をすることになった。
たまにお茶をする仲の僕たちは、ソファーではなく、暖炉の前に並んで座る。
ふかふかな高級絨毯が敷かれているから、お尻はまったく痛くない。
ただ静かに燃える火を見ているだけなのだけど、今日は僕がエドワードと過ごす日だと知っているにも関わらず、余計な詮索をしないユージーン様となら、いつまでも一緒にいられると思った。
「ノエル、寒くないかい?」
「はい。とても暖かいです、幸せ……」
「ふふっ、私も同じことを思っていたよ。ノエルと一緒にいると、心が癒される。なにも会話をしなくても、安らぐ……」
「僕は、今でもユージーン様の癒しのマスコット?」
こてりと首を傾げると、柔らかな笑みを浮かべたユージーン様が、僕の痩せた体を引き寄せる。
ふわりと甘い香りがして、このまま甘えてしまいそうになったけど、僕は慌てて距離を取る。
「ノエル?」
「っ……ごめんなさい、僕……」
「もう少し近くにいた方が、ノエルが暖かくなると思ったんだけど……」
僕のぷにぷにした体が暖かいと言ってくれていたユージーン様は、僕をぬいぐるみかなにかだと思っている。
エドワードが、ユージーン様をライバル視しているから普段はあまり仲良く出来ないけど……。
田舎から出てきて、頼れる人がいない僕をいつも気にかけてくれて、仕事まで紹介してくれた優しい人だ。
本当の弟を心配しているような、鮮やかなエメラルドグリーンの瞳を見つめて、少しだけ泣きそうになる僕は、膝を抱えて顔を隠した。
「どんなにぴったりくっついても、僕はもう、ユージーン様を暖めることが出来ない……。僕っ、痩せちゃったから……」
仕事を掛け持ちして、休む間もなく働いていたから、僕の体からは無駄な贅肉が削ぎ落とされて、もう骨と皮しか残っていないと思う。
小さな田舎町のことしか知らなかった僕は、幸せな未来が待っていると、信じて疑っていなかった。
意気揚々と都会に来たはずなのに、僕はどんどんみすぼらしくなっていた。
それなのに、ユージーン様が僕を背後から包み込んだ。
暖めるように、優しく手の甲を撫でてくれるけれど、僕の手はユージーン様と違って荒れている。
以前はずっと仲良しでいたいと願っていたのに、今では美しい容姿のユージーン様の隣にいることを、僕は恥じている。
それでも僕は、この時間を手放せない。
ユージーン様に嫌われるかもしれないと思っただけで、寒くもないのに、僕の細い体はカタカタと震えていた。
「今までは、ずっとノエルが私を暖めてくれていたから、今後は、私がノエルを暖めるよ」
優しい言葉に、僕は息を呑んだ。
いつのまにか震えも止まっていて、ゆっくりと振り返る。
弧を描く唇が、僕の額にそっと触れた。
「ノエル、誕生日おめでとう」
「っ…………ユージーン、さまっ」
ずっと、ずっと、我慢していたものが、ぽろぽろと零れていく。
ユージーン様の胸を借りた僕は、しばらく子どものように泣きじゃくっていた。
温もりに包まれながら、背を優しく撫でられているうちに、僕は久々に安眠することが出来ていた。
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