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 帽子もマフラーも外套も脱ぎ捨てた僕は、夜空を見上げて顔面で雪を受け止める。
 僕の瞳から溢れそうなものは、雪に違いない。

 見送りに来ていた人たちが駅のホームから去り、さっきまで騒がしかった場所には、もう僕しか残っていなかった。


 「ノエル」
 「っ……」

 
 僕の名を呼ぶ人なんていないはずなのに、急に声をかけられた僕は、ハッと目を見開いた。
 声の方に視線を向ければ、美しい金髪を隠して変装している長身の男性。
 でも、低く魅力的な声で、相手が誰なのかはすぐにわかった。
 僕たちが夢を追うことになるきっかけとなったお方であり、今宵のパーティーの主役とも言える人気者。

 
 「ユージーン様……。どうしてここに?」
 「知り合いが故郷に帰るから、ちょうど見送りに来ていたんだよ」
 「……そうだったんですか」
 「ノエル、風邪をひいてしまうよ。おいで」


 人目を気にしている僕に、くすりと妖艶に笑ったユージーン様は、自身の外套を脱ぎ、僕に羽織らせてくれた。
 

 「ダメですっ、ユージーン様が濡れちゃう……」
 「私は大丈夫だよ。そんなことより、お腹空いてないかい? 一緒に温かいものを食べてくれる相手を探しているところだったんだ」


 どこかの舞踏会から抜け出して来たような服装のユージーン様は、本物の王子様みたいだった。
 エドワードが所属する劇団では、ずっと主役を務めているお方で、舞台ではいつも王子様役。
 そんなすごいお方なのに、田舎者の僕をいつも気にかけてくれる優しい人だ。

 食事をする気分ではなかったのだけど、せっかくお誘いしてくれたのだから、僕はユージーン様と歩き出した。
 

 「どうして僕だって気付いたんですか?」
 「ああ、私が昔着ていた外套と同じものだったからね? 気になって見ていたら、甘い果実のような髪が見えたから。一目でノエルだって気付いたよ」


 その言葉に、僕は自然と口許が綻ぶ。
 エドワードが僕に用意してくれたプレゼントは、ユージーン様のお古だったことがわかったから。

 後援者がたくさんいるユージーン様は、まだ満足に給金が貰えない後輩たちに、自身がプレゼントされた服や小物を渡して面倒を見ている。
 僕は、エドワードの後援者からの施しなのかと思っていたから、ほんの少しだけ嬉しかった。
 本当なら、恋人が自分で稼いだお金で用意した誕生日プレゼントを貰いたいはずなのに、ユージーン様のお古で良かったと思うだなんて、僕の感覚はすでに麻痺していた。











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