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その後
65 飯抜きになるぞ?
しおりを挟むユーリと初デートをしている僕は、喫茶店で幸せになれるパフェを食べて、今は仲良く手を繋いで街を歩いていた。
近くの雑貨屋さんに寄って、お揃いのものをたくさん買ったんだ。
これって本当にいる? って思う物も、大好きなユーリとお揃いなら、その瞬間から不気味な置物も僕の宝物になる。
人はまばらだったから、人目を気にすることなく、ゆっくりと見回ることができた。
本でしか知らなかった世界に興奮して、喜ばせたいと思っていたユーリよりはしゃいでいたと思う。
純粋にデートを楽しんでいた僕は、いつのまにか荷物は全てユーリが持ってくれていて、支払いも済ませてくれていた。
あまりにスマートすぎて、高級宿に着くまでまったく気付かなかった……。
「自分が情けないっ」
「ん?」
「ユーリ、ありがとう。僕も荷物持つよ」
目を丸くしたユーリは、すごく楽しそうにくつくつと笑い出した。
「俺がヴィーに持たせるわけないだろ?」
「で、でも、僕も持ちたいっ」
鍛えているユーリは軽々と持っているけど、今日は特別な日なのだから僕が荷物を持つべきだ。
荷物に手を伸ばすけど、ひょいっとかわされる。
僕がトロすぎて、ユーリは余裕の笑みだ。
部屋まで案内してくれる中年の人について行く僕たちは、ひたすら荷物の奪い合いをしていた。
それでも粘っていたけど、可愛いと揶揄われる。
むっとした顔をすれば、降参だとばかりにユーリが肩を竦めた。
「それなら、ひとつだけ持ってもらおうかな?」
「っ、うん!」
ペアのマグカップの入った、明らかに一番軽い荷物を受け取った僕。
それでも嬉しくてぱあっと顔を綻ばせると、ユーリは愛おしそうに目を細くしていた。
仲良く歩き出そうとしたのだけど、案内してくれていた人が部屋の扉を静かに開く。
すごく微笑ましい顔をされてしまった僕は、恥ずかしくて頬がぶわっと熱くなっていた。
「ヴィー。ありがとうな? 嬉しかった」
「っ……僕、一歩も動いてないよ」
「ククッ。俺に夢中で、全く気付いていないヴィーが可愛すぎた」
「っ、ち、違うよ! に、荷物を持つことに夢中になっていただけで……って、僕はいつもユーリに夢中だから、合ってるのかも……?」
もじもじする僕の肩を抱いたユーリが、案内してくれた人に見せつけるように僕の頬にキスをする。
人前でも堂々としていて、ユーリはいつでもかっこいい。
嬉しいけど恥ずかしい僕は、どんな顔をしたらいいのかわからなくて、胸元で荷物を抱きしめてたじたじになっていた。
「下がってくれ」
「っ、あの、部屋の説明は……」
「必要ない」
ピシャリと言い放ったユーリの手によって扉が閉められ、戸惑う声が消える。
二人きりになった瞬間、僕はその場に荷物を下ろしたユーリに抱きしめられていた。
僕の顔を上げるように、両手で僕の頬を包み込んだユーリは、眉間に皺が寄っていてちょっぴり不機嫌だ。
「ヴィー。俺以外の前で、可愛い顔見せないで」
「っ、んんっ」
僕がなにかを言う前に、口を塞がれる。
引っ込んでいた舌を絡め取られて、気持ちよくてふらふらになる僕は、扉に背を預けてなんとか立っている状態だ。
マグカップだけは落とさないように、手だけにぎゅうっと力が入る。
そのことに気付いた様子のユーリが、僕の手からスムーズに荷物を奪い取り、そっと床に置いた。
「はぁ、可愛すぎ」
ふわふわしていた僕は、ご機嫌になっていたユーリに抱き上げられて、慌ててぎゅっとしがみつく。
僕を軽々と抱き上げて歩くユーリは、ちゅっちゅとキスをしており、室内をまったく見ていない。
それなのに、的確にベッドまで辿り着いていた。
抱き合ったままふかふかのベッドに倒れこむ僕たちは、飽きることなくキスをする。
「んぁっ……ゆーり……」
「……キスだけでもうトロトロだな? ヴィー」
薄らと目を開けると、蜂蜜のような黄金色の瞳が僕を見下ろしていた。
僕をトロトロだと揶揄うように言ったユーリだけど、ユーリの方こそいつもより蕩けた表情だ。
「ゆーりも、だよ? とろとろっ」
「っ……はあ~。だから可愛いすぎだって……。襲うぞ?」
すでに僕に覆い被さっているというのに、ユーリはおかしなことを言っている。
『俺以外の前でそんな顔を見せるな』と再度注意される僕は、くすりと笑ってしまった。
「ヴィー? なに可愛い顔で笑ってるんだよ。俺の話をちゃんと聞いてたか?」
「うん。ユーリは心配性だよね? 僕がとろとろになっても、今はユーリしかいないからいいでしょう?」
「うっ……。今はな?」
「それに、僕をとろとろにさせるのは、この世でユーリだけだよ」
真実を告げると、ユーリの眉がぴくりと動いた。
さっと口許を押さえたユーリは、トロトロの顔を隠したかったみたいだ。
「それでもユーリが心配なら……二人で鳥籠に入る? ずーっと二人きりだよ」
「っ……ヴィー! ちょっと黙って。それ以上喋ったら、本気で襲うからな?」
豪華なディナーを予約しているのに、『飯抜きになるぞ?』と耳元で囁かれてしまった僕は、頬を赤らめて大人しく口を閉じていた。
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