64 / 65
その後
64 雪の妖精の攻撃力 ユーリ
しおりを挟むついに愛する恋人との初デートの日を迎えた俺は、鏡の前で入念に髪をセットし、気合い十分。
歳を重ねたことより、ヴィーとデート出来ることの方が、俺にとっては喜ばしいことだ。
俺の新調した黒地のスーツ姿を見れば、ヴィーは間違いなく俺に惚れ直すだろう。
ヴィーの好みは、十年前からリサーチ済みだ!
「お、お待たせっ……」
愛する恋人を部屋まで迎えに来ていた俺は、恥ずかしそうに伏し目がちで現れた、白銀の天使様に目を奪われる。
全身真っ白な愛らしいコーディネートは、雪の妖精と言っても過言ではない。
いや、妖精より可愛いと思う。
妖精を見たことはないが、間違いない。
「ヴィー、すごく可愛い。妖精と見間違えた」
「っ……あ、ありがとう。ユーリも、すっごくかっこいいよっ! しかも……僕とお揃い?」
「本当だな、趣味が合う」
「っ、すごい偶然だね?」
ぱあっと顔を綻ばせたヴィーに見惚れる俺は、馬車までかっこよくエスコートする。
俺とのデートを楽しみにしていたお姫様は、今日のためにお小遣いを奮発しているんだ。
なんて可愛いんだと悶える俺は、恋人に一銭も支払わせる気がないため、事前にヴィーが用意していた衣装を全て買い取っている。
買収した商人には、『お美しいヴィヴィアン殿下にモデルになってほしいので、この衣装で街を闊歩してほしい』と言わせているため、今日は心置きなく俺とのデートを満喫できるはずだ。
馬車に乗り込み、今日は左手の薬指に指輪をつけている俺は、隣に座る恋人の柔らかな手を取る。
外は真夏の太陽が暑いくらいなんだが、ヴィーと手を繋ぎたい俺には関係ない。
「ユーリは人気者だから、僕とデートしてたら、キャーキャー言われちゃうかも……」
「ククッ、それはない。ヴィーに見惚れる奴はいるかもしれないけどな?」
「そ、そうかなあ……? そんなことないと思うけど……。ユーリは、自分がかっこいいことに気付いていないんだ」
可愛い独り言を言っているヴィーは、自己評価が低すぎると思う。
アルメリア全国民が、ヴィヴィアンをこの国一番の美貌の持ち主だと言っているのというのに……。
くっ。俺の天使は、謙虚なところも可愛い!
天使を待ち侘びるスウィーティーに到着し、野郎共は素晴らしい演技で、俺たちを無視する。
ほっと胸を撫で下ろすヴィーを横目で見つつ、奥の個室に向かった。
座り心地の良いソファーを一つだけ設置した席に、二人並んで腰掛ける。
「カップル専用の個室みたいだな」
「わぁ! そうなんだ!」
しれっと話したが、俺が用意した個室なので、明日からは普通にソファーが二つ並べられるはずだ。
メニューも丸暗記しているが、熟読しているふりをする俺は、まだデザートを頼んでもいないのに顔を綻ばせるヴィーを見つめた。
「チョコケーキも美味しそうだが、ここはやはり幸せになれるパフェだろうな」
「ふふっ、嬉しい! 食べさせ合いっこ出来るね?」
楽しみだと微笑む俺は、俺の恋人に見惚れる店員に殺気を放ちながら、パフェと紅茶を注文する。
「あっ……」
「どうした? 他にも注文する?」
「ううん。僕がかっこよく注文する予定だったのに、ユーリにやらせちゃった」
もじもじとするヴィーに、上目遣いで見つめられる。
……可愛すぎるだろう、コノヤロウ!
「今日はユーリの為に、僕がエスコートする予定だったのに、気付いたら全部やらせてるね?」
「ククッ。ヴィーの気持ちが嬉しい。でも俺は、可愛い恋人をエスコートしたいから、ヴィーは俺の隣で笑ってるだけで満足だよ」
宿まで我慢出来ずに、唇を奪う。
誰も見ていないというのに、大きな瞳を彷徨わせたヴィーの頬が、じわりと赤らんだ。
「ああ、パフェより美味しそうなデザートが目の前にあるな?」
「えっ?!」
「今すぐ食べてしまいたい……」
デート序盤から押し倒してしまいそうな勢いの俺は、真っ赤な顔のヴィーを、うっとりと見つめていた。
「熟した苺より美味しそう」
「っ…………お、美味しく、食べてね?」
普段なら「恥ずかしいこと言わないで!」と、照れ隠しでぷりぷりと怒るヴィーだが、逆にカウンターを食らってしまった。
直後、苺やメロンなどの高級フルーツが盛り付けられたパフェが運ばれて来て、なんとか命拾いをした俺。
「ユーリ、あーん」
「っ…………」
追撃されるのだが、俺に食べさせようとするヴィーも、俺と一緒にあーんと口を開けている。
いやいや、可愛いの塊。
俺の視界には、巨大なパフェなど見えていない。
「今まで食べた中で、一番美味しい……」
幸せを噛み締めていると、ヴィーも同じような表情を浮かべていた。
「ヴィー?」
「僕の目の前にも……美味しそうなデザートが、あったみたい……」
「っ、ちょっと黙ろうか?」
今日のヴィヴィアンは、攻撃力がえげつない。
ヴィーが喋れないように、次々と小さなお口にフルーツを運ぶ。
「結局、僕ばっかり食べちゃったよぉ~」
「ククッ、でも幸せになれたな?」
もぐもぐとフルーツを咀嚼する恋人を、俺は頬杖を突きながら目に焼き付ける。
だらしない顔を晒していると、ヴィーは頬を両手で押さえて、きゅっと持ち上げた。
「もう、なんなの。本当可愛すぎる」
「ふふっ、ユーリがね?」
「はぁ…………、夜は覚えとけよ?」
途端に顔から火が出そうになるヴィーは、俯いてもじもじし始めた。
……ナポレオン、今夜は一度では済まないかもしれない。
ヴィーが可愛すぎて暴走しかけている俺は、お土産のクッキーを根こそぎ買い取り、なんとか支払いを済ませていた。
20
お気に入りに追加
1,280
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる