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その後
64 雪の妖精の攻撃力 ユーリ
しおりを挟むついに愛する恋人との初デートの日を迎えた俺は、鏡の前で入念に髪をセットし、気合い十分。
歳を重ねたことより、ヴィーとデート出来ることの方が、俺にとっては喜ばしいことだ。
俺の新調した黒地のスーツ姿を見れば、ヴィーは間違いなく俺に惚れ直すだろう。
ヴィーの好みは、十年前からリサーチ済みだ!
「お、お待たせっ……」
愛する恋人を部屋まで迎えに来ていた俺は、恥ずかしそうに伏し目がちで現れた、白銀の天使様に目を奪われる。
全身真っ白な愛らしいコーディネートは、雪の妖精と言っても過言ではない。
いや、妖精より可愛いと思う。
妖精を見たことはないが、間違いない。
「ヴィー、すごく可愛い。妖精と見間違えた」
「っ……あ、ありがとう。ユーリも、すっごくかっこいいよっ! しかも……僕とお揃い?」
「本当だな、趣味が合う」
「っ、すごい偶然だね?」
ぱあっと顔を綻ばせたヴィーに見惚れる俺は、馬車までかっこよくエスコートする。
俺とのデートを楽しみにしていたお姫様は、今日のためにお小遣いを奮発しているんだ。
なんて可愛いんだと悶える俺は、恋人に一銭も支払わせる気がないため、事前にヴィーが用意していた衣装を全て買い取っている。
買収した商人には、『お美しいヴィヴィアン殿下にモデルになってほしいので、この衣装で街を闊歩してほしい』と言わせているため、今日は心置きなく俺とのデートを満喫できるはずだ。
馬車に乗り込み、今日は左手の薬指に指輪をつけている俺は、隣に座る恋人の柔らかな手を取る。
外は真夏の太陽が暑いくらいなんだが、ヴィーと手を繋ぎたい俺には関係ない。
「ユーリは人気者だから、僕とデートしてたら、キャーキャー言われちゃうかも……」
「ククッ、それはない。ヴィーに見惚れる奴はいるかもしれないけどな?」
「そ、そうかなあ……? そんなことないと思うけど……。ユーリは、自分がかっこいいことに気付いていないんだ」
可愛い独り言を言っているヴィーは、自己評価が低すぎると思う。
アルメリア全国民が、ヴィヴィアンをこの国一番の美貌の持ち主だと言っているのというのに……。
くっ。俺の天使は、謙虚なところも可愛い!
天使を待ち侘びるスウィーティーに到着し、野郎共は素晴らしい演技で、俺たちを無視する。
ほっと胸を撫で下ろすヴィーを横目で見つつ、奥の個室に向かった。
座り心地の良いソファーを一つだけ設置した席に、二人並んで腰掛ける。
「カップル専用の個室みたいだな」
「わぁ! そうなんだ!」
しれっと話したが、俺が用意した個室なので、明日からは普通にソファーが二つ並べられるはずだ。
メニューも丸暗記しているが、熟読しているふりをする俺は、まだデザートを頼んでもいないのに顔を綻ばせるヴィーを見つめた。
「チョコケーキも美味しそうだが、ここはやはり幸せになれるパフェだろうな」
「ふふっ、嬉しい! 食べさせ合いっこ出来るね?」
楽しみだと微笑む俺は、俺の恋人に見惚れる店員に殺気を放ちながら、パフェと紅茶を注文する。
「あっ……」
「どうした? 他にも注文する?」
「ううん。僕がかっこよく注文する予定だったのに、ユーリにやらせちゃった」
もじもじとするヴィーに、上目遣いで見つめられる。
……可愛すぎるだろう、コノヤロウ!
「今日はユーリの為に、僕がエスコートする予定だったのに、気付いたら全部やらせてるね?」
「ククッ。ヴィーの気持ちが嬉しい。でも俺は、可愛い恋人をエスコートしたいから、ヴィーは俺の隣で笑ってるだけで満足だよ」
宿まで我慢出来ずに、唇を奪う。
誰も見ていないというのに、大きな瞳を彷徨わせたヴィーの頬が、じわりと赤らんだ。
「ああ、パフェより美味しそうなデザートが目の前にあるな?」
「えっ?!」
「今すぐ食べてしまいたい……」
デート序盤から押し倒してしまいそうな勢いの俺は、真っ赤な顔のヴィーを、うっとりと見つめていた。
「熟した苺より美味しそう」
「っ…………お、美味しく、食べてね?」
普段なら「恥ずかしいこと言わないで!」と、照れ隠しでぷりぷりと怒るヴィーだが、逆にカウンターを食らってしまった。
直後、苺やメロンなどの高級フルーツが盛り付けられたパフェが運ばれて来て、なんとか命拾いをした俺。
「ユーリ、あーん」
「っ…………」
追撃されるのだが、俺に食べさせようとするヴィーも、俺と一緒にあーんと口を開けている。
いやいや、可愛いの塊。
俺の視界には、巨大なパフェなど見えていない。
「今まで食べた中で、一番美味しい……」
幸せを噛み締めていると、ヴィーも同じような表情を浮かべていた。
「ヴィー?」
「僕の目の前にも……美味しそうなデザートが、あったみたい……」
「っ、ちょっと黙ろうか?」
今日のヴィヴィアンは、攻撃力がえげつない。
ヴィーが喋れないように、次々と小さなお口にフルーツを運ぶ。
「結局、僕ばっかり食べちゃったよぉ~」
「ククッ、でも幸せになれたな?」
もぐもぐとフルーツを咀嚼する恋人を、俺は頬杖を突きながら目に焼き付ける。
だらしない顔を晒していると、ヴィーは頬を両手で押さえて、きゅっと持ち上げた。
「もう、なんなの。本当可愛すぎる」
「ふふっ、ユーリがね?」
「はぁ…………、夜は覚えとけよ?」
途端に顔から火が出そうになるヴィーは、俯いてもじもじし始めた。
……ナポレオン、今夜は一度では済まないかもしれない。
ヴィーが可愛すぎて暴走しかけている俺は、お土産のクッキーを根こそぎ買い取り、なんとか支払いを済ませていた。
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